フードサービスの技術革新(フードシステム研究所 rif)

オフィイスビル内フードサービスにおける厨房システム
基本フレームと技術革新

チェーンレストラン分野のトレンド
売上の推移
Bureau of Foodservice Researchによると、アメリカのフードサービス産業の売上規模はいぜん拡大基調にあり、1995年には2,917億ドルに達する見込みである。インフレーション要素を除いた実質成長率では、この拡大傾向が93年にピークに達し(2.1%)、それ以来成長率は若干落ち込みながらもほぼ横ばい状態で、安定した推移を見せている。

内食と外食のマーケットを比較すると、現在は内食の方が外食よりも大きいが、内食は減少傾向、外食は増加傾向にあり、近い将来には外食マーケットの方が大きくなるのではないかと考えられる(図1)。

アメリカでは日常生活でキッチンを全く使わないという家庭が結構多い。そのため、焼き物料理など煙の出る調理は行わないということを前提にキッチンが設計されており、キッチンのフィルターは循環式で排気をせず臭いをとるだけの構造になっている場合が多い。共働きが多いということも関係しているとは思うが、このようにアメリカの家庭は確実に調理をしない方向に向かっており、今後も外食マーケットが拡大してゆくと思われる。

レストラン繁盛度と人口移動
フードサービス産業は、人口動態が大きく影響する。

現在アメリカの人口は、東部から南部や西部へと移動している。また、西海岸地区は、防衛産業の衰退が影響して人口の流出現象が起きている。

このようなことが影響して、最近は新しいトレンドのレストランが東海岸や西海岸からではなく、南部から現れてきている。本社をフロリダ州に置き、南部を中心にチェーンを展開するケニー�ロジャース�ロースターズ(Kenny Rogers Roasters)やアウトバック�ステーキハウス(Outback Steakhouse)などがその代表である。

図1.食料費に占める外食と内食の割合入る

老齢化
急速に老齢化社会を迎えている(図2)。それに伴い、ナーシングホーム(Nursing Home養老院)が増加し、高級化する傾向にある。

図2.年齢層人口増減
Age Increase/Decline
0-14 1,335,000
15-24 -1,059,000
25-34 -2,962,000
35-44 4,439,000
45-64 -39,000
65+ 2,204,000

栄養問題への関心
「外食時に最も気掛かりな栄養分は何か」という消費者調査(図3)で、最も多くの回答を得たのが脂肪である。実に約半数の人(53%)が回答している。その次にコレステロール、カロリー、カフェイン、MSG(グルタミン酸ナトリウム―味の素などの化学調味料のこと)、塩分…と続いてくる。

カフェインに対する国民の関心度はアメリカと日本で若干違う。アメリカでは、カフェインに対する関心が高く、カフェインレスのコーラやコーヒーが大量に出回っている。カフェインは血圧が上昇し興奮状態になることから精神安定上よくないという考え方があるらしい。

MSGも日本よりアメリカの方が関心度が高いといえる。MSGを大量にとると、顔が赤くなったり、興奮状態になったり、発汗作用があるといわれている。大量に調味料を使う中華料理でMSGアレルギーが多発しており、アメリカではこのアレルギーのことをチャイニーズ�レストラン�シンドローム(Chinese restaurant syndrome)と呼んでいる。

図3.顧客が最も心配していると考えている栄養分 (調査対象:レストラン経営者および従業員)

レストランのメニュー
アメリカのレストランの売れ筋メニューを集計し、売れ筋メニューの上位10種を抽出したものが、次の通りである(Restaurants & Institutions、1993 Menu Censusより)。

(1) チキンブレスト Chicken Breast(日本ではチキンの場合ダークミート[もも肉]
が好まれるが、アメリカではブレスト[白身]が好まれる)
(2) ターキーブレスト Turkey Breast
(3) チリ Chili
(4) ローストビーフ/プタイムリブ Roast Beef/Prime Rib
(5) ラザニア Lasagna
(6) チキンボイルド/グリルド
Chicken Boiled/Grilled(ロティサリーチキンのこと)
(7) チキンフライド Checken Fried
(8) シュリンプ、ブレデッド/フライド Shrimp、Breaded/Fried
(9) チキンベイクド Checken Baked
(10) ハンバーガーステーキ Hamburger Steak

これをみると、ビーフよりもチキンやターキーといった類の脂肪の少ない肉を使ったメニューが多いのが分かる。しかし低脂肪の肉は、食べる量がどうしても多くなってしまうため、コレステロールや脂肪分の摂取量が最終的にはビーフと変わらないという意見も多い。そのため、ビーフも一時期ほど敬遠されていないようであり、ロティサリーチキンとビーフステーキというヘルシー面で相反するチェーンが繁盛しているという両極面の現象がみられる。

エスニック別のトレンド
エスニック別の成長率を示したのが、図4である。 パスタやロティサリーチキン、ピザなど、イタリア料理(Italian)の分野が最も成長している。

その次に成長著しい分野は、南部系のメキシコ料理/テックスメックス料理(Mexican/Tex―Mex)とカリブ料理(Caribbean)である(テックスメックスは、米国とメキシコの国境地帯が発祥の地で、テキサスとメキシコの料理が融合したものをいう)。これは、南部の人口が増加していることと関係している。

フランス料理(French)は低調である。脂っこさが嫌われているのが原因なのか、ついに伸びが止まったのではないかと考えている。

図4.最も成長していると考えられる業態 入る

イタリアンのトレンド
イタリアンの分野では、ロティサリーチキンを主力メニューとしたボストンマーケット (Boston Market)というチェーンが最も成長している。つい最近までボストンチキンと名乗っており、チキンだけでも繁盛していたが、チキンからマーケットに名称を変更し、次のようなチキン以外のメニューを多少追加したのである。

ロティサリーターキー Rotisserie Turkey
ダブルグレイズドハム Double Glazed Ham (グレイズドというのは、はちみつをかけているため日本人には少し甘口である。感謝祭の時にこのような食べ方をする)
チキンポットパイ Chicken Pot Pie
ベジタブルポットパイ Vegetable Pot pie
メニューに幅を持たせ、新しい需要を掘り起こそうという動きも最近のアメリカのトレンドである。

店内はイタリア風のハイカラなイメージを演出している。

ファーストフードはもともと昼食がメインであり客単価は通常3ドル弱であるが、ボストンマーケットはディナータイムがメインであり5ドル強と高い。ファーストフードのほぼ2倍である。このことが一店あたりの売上水準を高くし、収益性を高めることにつながっている。この収益性の良さが注目され、同様のコンセプトをもったケニーロジャースやハースエキスプレス(Hearth Express)のようなブランドが出現してきた。

実はハースエキスプレスはマクドナルドの実験台店である。全くのボストンチキンのコピーともいえる店を、イリノイ州のダーリン(Darien)という町に出している。ハースとは竈のことで、そこから家庭料理や健康というイメージを演出しようといる。ハースエキスプレスはまだ実験段階でこの先は全く未定だそうだが、マクドナルドのような大手ファーストフード�チェーンまでボストンマーケット�スタイルのトレンドを無視できないでいるということを注目すべき事実である。

ファーストフードはもともと昼がメインであったが、次に朝が強くなり、最近はこのようにボストンマーケットというチェーンの登場で、ファーストフード企業によるディナータイムのマーケティングが注目されている。

ピザには、カリフォルニア�ピザ�キッチン(California Pizza Kitchen)というチェーンがあるが、日本でパスタやピザをお客様に見えるように調理しているコンセプトの店はだいたいこのチェーンをヒントにしている。

シアトル発祥のグルメコーヒー、スターバックス(Starbucks Coffee Shop)もエスプレッソやカプチーノというイタリアのコーヒーを提供し急成長しているチェーンである。

このように現在繁盛している店は、イタリアンコンセプトを使っていることが多い。

オープンキッチン
ボストンマーケットは、店に入ると目の前でチキンを焼いており、臨揚感と出来立て感が味わえる。

カリフォルニア�ピザ�キッチンも、パスタを目の前で調理したり、竈の中で焼いている。

スターバックス�コーヒーも、お客様の注文を受けてから、目の前で一杯ずつ入れている。

お客様に調理を見せるというトレンドは、日本でも同様である。

新宿パークハイアップの52階にあるニューヨークグリルという繁盛店も、クロークからオープンキッチンの前を通って客席に案内している。

「料理の鉄人」の道場六三郎氏が経営する赤坂のプラッセリー六三郎も、オープンキッチンにし、厨房での調理風景をお客様に見せてから客席に案内している。

テレビ番組の「料理の鉄人」の視聴率が高いように、食事はただ食べるだけの楽しみから調理の過程まで楽しむように変化してきているのである。

このように、洋の東西を問わずオープンキッチンがトレンドとなっていることは興味深い。

コントラクトフードサービス分野のトレンド
企業給食
企業給食分野でも、オープンキッチンがトレンドとなっている。もともと企業給食はカフェテリアラインが主流であったが、最近はアイランドタイプ(フードコーナーや作業台を島状に配置したもの)に変化してきた。アイランドの中でピザを焼いたり、パスタを茹でたり、オーブンで焼いたりして、お客様に調理しているところを見てもらい、メニューを選んでもらうというのが最新のスタイルである。

シニリトル�インターナショナル社(Cini�Little International、Lnc)がデザインしたシカゴにあるモトローラ社(Motorola、Inc)の新しい工場は、このアイランドタイプを導入している。カフェテリアの部分では、お客様に見えるようにアイランドの中で調理人が調理を行い、奥のキッチンはクックチルシステムを導入してタンブルチル(水冷式のクックチル)でスープやソースを調理している。お客様の前では、臨揚感や出来立て感、手作り感といったものを演出し、お客様に見えないメインキッチンは機械化して徹底的に合理化するという考え方である。将来的には、このメインキッチンから他の工場までクックチル食品を配送する計画もある。

アメリカの企業はリエンジニアリングに積極的であり解雇も積極的だが、残った従業員の福利厚生にも随分積極的に取り組んでいる。社員食堂も、これまで以上に合理化しコストを削減しなければならないが、それと同時に、いままで以上にいかに楽しめるかということまで真剣に考え、設計段階から取り組んでいるのである。

刑務所の給食
企業給食は豪華な方向に向かっているが、公共施設(刑務所、学校、病院、等)の分野は事情が異なる。この分野は国や州からの補助を徐々に減らされており、合理化によるコストの削減が必要となっている。ところが、最近ヘルシー志向のトレンドを無視することはできず、栄養面は確実に管理しなければならないという状況にある。

最近、刑務所が給食に関して人権問題で訴えられるという事件が相次いだ。刑務所の食事で高血圧になったとか、糖尿病になったとかいう訴訟であるが、原告側が裁判で勝訴している。イスラム教徒やユダヤ教徒が宗教上禁止されている食べ物を食べさせれられたという訴訟も相次いだ。州はコストを下げながら、糖尿病食、減塩食、イスラム教徒用の食事、ユダヤ教徒用の食事など、メニューのバラエティ化を図る必要性が出てきた。

このような経験があり、刑務所のキッチンにクックチルシステムを導入することが検討され始めた。クックチルシステムを導入した最大の刑務所は、サンディエゴにある州刑務所であり、一日に約3万食の調理能力を持っている。93年にオープンし、現在は37名の従業員で一日に18,000食を調理している。キッチンはこの地区の刑務所のセントラルキッチンとしても機能しており、周辺の複数の刑務所にクックチル食品を供給している。 アメリカの刑務所の数は囚人の数に対して圧倒的に不足しており、大型刑務所の建設を積極的に進めている。サンディエゴの刑務所のような、2‾3万人を収容し、食事を一度に提供できる大規模な施設も続々と完成している。その中でも、シカゴのクック郡にに建設中のものは、刑務所給食では最大級のクックチルシステムになるのではないかといわれている。

刑務所といえども、パンはスクラッチ、朝はフレッシュオレンジジュースとコーヒー、そしてビスケット、フルーツ、夜になればデザート、ケーキまでついている。これにワインがあれば、飛行機のエコノミーの食事よりも贅沢である。

学校給食
学校給食も補助が減らされており、合理化が図れている。 これまでは学校ごとに調理していたものを、最近はセントラルキッチンで集中調理して配送するシステムに変わってきている。例えば、カリフォルニアのサンフランシスコから2時間ぐらいのモディスト(Modesto)という町では、一日23,000食をクックチルシステムを導入したセントラルキッチンで調理し、9つの学校に配送している。建設費用として7億円ほど投資しており、7‾12年ぐらいで償却する計画で取り組んでいる。

アメリカのクックチル施設は、約7割がタンブルチルで、残りの3割ほどがブラストチル(空冷式のクックチル)である。刑務所では双方のシステムを併用しているが、学校ではメニューを絞りタンブルチル設備のみを導入していた。彼らによると、タンブルチルだけの方が生産性が高いということである。クックチル食品の保存期間は、ブラストチルは5日と短いがタンブルチルは45日ほどと長いため、ブラストチル食品は、その日残ったら、10日後あるいは2週間まで保存し、2回目のメニューサイクルで消費するということが可能になる。メニューバラエティの問題も、学校給食程度ではタンブルチルのみで十分対応できるとのことである。

病院給食
病院も効率的に運営するため、学校給食と同じように集合化する動きがある。また、退役者軍人の病院施設では、すでにクックチルシステムの導入を義務づけられている。

ナーシングホームは、料理など自分たちでできることは自分たちで行い共同生活を送ろうというのがこれまでのスタイルであったが、高齢者の増加とともにナーシングホームの数が増えてくると、考え方も贅沢になってきた。自分たちではあまり料理したくないという人達も増えてきたのである。そこで、各部屋の真ん中に団欒場(食堂)を設置し、セントラルキッチンで調理したクックチル食品を団欒場に運び込むという方法が考え出された。

このようなこともあり、ナーシングホームはこれからのクックチルの最大の市場であると注目されている。

ファーストフードとコントラクトフードサービス
アメリカ外食産業の94年売上ランキングは、次のようになっている。

(Nation′s Restaurant Newsより)。

(1) マクドナルド McDonald′s
(2) バーガーキング Burger King
(3) ピザハット Pizza Hut
(4) タコベル Taco Bell
(5) ウェンディーズ Wendy′s
(6) KFC
(7) ハーディーズ Hardee′s
(8) ARAサービス ARA Service
(現在のアラマーク Aramark)
(9) マリオット Mariott
(10) サブウェイ Subway

上位10社は、8位と9位にランキングされているコントラトフードサービス企業2社 を除いてすべてファーストフード企業である。日本とはランキングされている業態の構成が異なり、ファミリーレストランの上位3社は、デニーズ(Denny′s)が16位、ショーニーズ(Syoney′s)が17位、ビッグボーイ(Big Boy)が26位というところで留まっている。

ファーストフード分野は、フードサービス産業全体に占める割合が74年に29%であったものが94年には42%と大きくシェアを伸ばしている。ファーストフード上位50社の伸び率も、91年に一度落ち込んだだけで、その後93年からは毎年10%以上の成長を続けている。

ファーストフード企業は、コントラクトフードサービス分野へも進出を試みている。 カートやキオスクタイプの小型店舗のフォーマットを開発し、これまで出店できなかった場所への出店を可能にしたのも技術革新の一例である。既に、学校にカートを持ち込み、ファーストフード商品を売ることも行われている。

マクドナルドでは、本社の社員食堂にマクドナルドの店舗を設置し、既存点と同じメニューで営業している(社員の福利厚生の面からワインやビールなどのアルコールも置いている)。この実験は好調であり、既に学校や病院の給食施設に進出を始めている。 ペプシコグループも、KFC、タコベル、ピザハットの三つのコンセプトを入れた店舗での出店を検討している。KFC本社の地下の社員食堂では、この三つのブランドのキオスクを並べて営業している。KFCのキオスクは、メンフィスのフェデラルエキスプレス(Federal Express Corp.)の本社社員食堂にも出店している。これは、レギュラー店舗が出店できない立地にキオスクタイプを出店し、社員食堂としての機能を検証する実験である。

このように、ナショナルブランドのファーストフードが積極的にコントラクトフードサービス分野に進出してきているが、まだ刑務所給食への進出の話は聞いていない。 一方、コントラクトフードサービス業界では、成長著しいファーストフードを積極的に導入しようという考え方が出てきた。

マリオット(Marriott)社は、ペプシコグループ全体とバーガーキングのフランチャイジーになるなど、ファーストフードの導入に積極的である。ニューヨークJFK空港のフードコートの経営はマリオット社が請け負っているが、ここにはKFCやピザハットが出店している。日本でも、残念ながら半年ほどで撤廃してしまったが、成田空港にスターバックスとピザハットの複合店を出店していた。このように、コントラクトフードサービス企業もファーストフードブランドを導入する傾向が顕著になってきている。

ファーストフード業界とコントラクトフードサービス業界はお互いに境界線を踏み越え入り乱れてきており、この分野での競争も今後ますます激しくなっていくであろう。

調理技術のトレンド
調理技術の流れ
調理技術は、次のように時代とともに変化してきている。

(1) 調理→提供
(2) 調理→保温→提供
(3) 調理→冷凍→解凍→再加熱→提供
(4) 調理→冷凍→解凍→再加熱→保温→提供
(5) 調理→急速冷蔵→再加熱→提供
(6) 調理→急速冷蔵→再加熱→保温→提供

(1)は、一般の家庭で行われているような、単に調理をして提供するという方法である。この方法では、ピークに合わせた調理が調理が必要となる。また、ピークで捌ける食にも限度がある。

つぎに、(1)の食数の限界を越えて提供するために、(2)のように調理と提供の間に保温工程を入れる方法が開発された。最大ピークに合わせて、調理した食品を保温し、ストックしておくことで、最大ピークで捌ける許容範囲が大きくなる。しかし、調理する時間帯をズラして調整しているだけのため、調理時間の絶対数は短縮されない。

(3)(4)は、冷凍食品を使うことにより、店舗での調理作業の負担を少なくし、調理時間も短縮しようという方法である。しかし、冷凍食品は調理が簡単で賞味期間も長く、便利であるが、冷凍と加熱に要するエネルギーコストが高くつく。

(5)(6)は、冷蔵は冷凍より温度差が少ないため、(3)(4)で課題となったエネルギーコストが少なくて済むという方法である。

このように、調理技術は進化し細分化されてきている。今後、クックチルと再加熱、保温の技術といった分野の開発がトレンドとなっていくのではないかと考えている。

調理の合理化
調理の合理化は、(1)焼く�(2)煮る、(3)揚げる、(4)蒸す、(5)茹でる、(6)汁と6種類に類して考える。

焼く
焼き物は時間がかかる。給食では、一度焼いたものを冷凍して湯煎して提供する方法が一般に行われているが、これはフレーバーがなくなってしまう。
この部分の技術革新にエアーインピンジメントオーブン(Air inpingement oven)の開発がある。エアーインピンジメントオーブンは、コンベアに食品を乗せ移動させながら、その食品の上下から加熱された空気によって加熱するという構造である。

焼き物は、従来、食品の上下のヒーターで焼いていたが、この方法では、食品が空気に囲まれている状態のため、空気が食品の表面に沿って境界層という断熱材の役割をする層をつくってしまい、加熱にどうしても時間がかかる。高速で焼くために、この境界層を破壊しなければならない。そのために、加熱した空気を食品に吹きつけて焼こううという発想が出てきた。

この原理は泡風呂と同じである。銭湯で熱い風呂に入ったときは、最初熱さを感じるが、そのままがまんしていると熱さは感じなくなる。が、横に他人がボチャと入ったら、また波がきて熱さを感じる。波が境界層を破壊することで、熱交換が活発になるのである。泡風呂では生ぬるくても体が良く温まるというのは、泡がその熱境界層を取り払い、速く体に熱を伝えるという現象が起きているからである。

こうして、コンベクションオーブン(Convection oven)が開発された。コンベクションオーブンは、食品の上下ではなく横から風速2‾4メートルの熱風が吹き出す。オーブン内に上下に並ぶ複数の棚に食品を並べるため、上の棚にある食品から下の食品まで満遍なく熱風を当てるには、食品の上下からではなく横壁から食品に向けて風が吹き出す方法のほうが効率が良い。

より早く焼き上げるためには、風速を上げなければならないが、この方法では食品の形によって風が当たるところと当たらないところがあり、これ以上急速に加熱すれば焼けむらがでくることがある。

この問題を改善して性能アップしたのが、エアーインピンジメントオーブンである。インピンジメントというのは突き刺すという意味である。細い穴をオーブンのプレートに空け、食品に突き刺すように上下から風を吹き付けながら、入り口から出口までコンベアで移動させようというものである。

この方法で、食品に熱風を均等に吹き付けることができるようになり、風速4‾8メートルの高速の風を吹き付けても焼けむらができなくなった。

また、食品は入り口から出口へ向かって一方通行で加熱されるため、その入り口と出口に配置された2名の従業員だけで大量に調理できる。ドアを空けて食品の出し入れをしたり、そのたびに電源を切るようなこともしなくて済む。忙しさが限界に近づけば近づくほど人件費率が下がり生産性が向上することになる。

宅配ピザの分野では、このエアーインピンジメンとオーブンやコンビネーションオーブン(Combinatoin oven)を使って当然ピザも焼く。もともとFFの宅配ピザ用に開発されたものであり、この技術革新でドミノプザのような巨大な企業が生まれた。同時に別の食品も同じラインで加熱調理している。例えば、フライドチキンを工場でフライした状態で冷凍し、店舗でそれを解凍して、注文と同時にピザと同じ約5分という時間設定でエアインピンジメントオーブンの中に流すと、ピザと同時に出来上がるという仕組みである。このように再加熱に使うのが大きな特徴である。クックチル食品や調理済みの冷凍食品とピザを組み合わせて、このように使われることが多くなってきた。

エアーインピンジメントオーブンよりも高速に焼き上げるため、上下に赤外線をつけた大型のコンベアオーブンもある。バーガーキングでは、このタイプでハンバーガーのパティを焼いている。焼け焦げのつきにくい魚が、このタイプで焼かれることも多い。

その他にも、スチームコンベクションオーブン(Steam convection oven)という焼くための機器がある。コンベクションオーブンに蒸気を入れるとスチームコンベクションオーブンになるという認識は間違いであり、実は全くの別物である。

コンベクションオーブンは密閉器ではないが、スチームコンベクションオーブンは完全密閉型であり、加熱蒸気を使用する。スチームコンベクションオーブンは、スチームジュネレーターで蒸気を発生させ、庫内に送り込み、庫内のヒーターまたはガスパイプでさらに熱を上げるシステムになっている。蒸気というのは、1気圧の大気中で1グラムの水を1℃上げるのに1カロリー必要であるが、それを100℃で気体にさせると5‾37カロリーが必要になる。その蒸気の中に100℃以下の食品を入れると、表面が露結する。温度の低い食品の表面と触れた水蒸気によって、食品に537カロリーが伝わり、蒸気が液体に戻るのである。オーブンでは、この現象が連続して起こっており、水蒸気の537カロリーはぞの食品に集中して伝わっている。こうして食品が加熱される。庫内を水蒸気で満たしているため、熱伝達が最も速い厨房機器である。

ただし、蒸気で加熱するため、焼け焦げが付きにくいというデメリットがある。そのため、スチームコンベクションオーブンは、調理済みの食品を素早く再加熱するような場合に使われることが多い。

焼くという調理は、最近日本でも、魚を両面同時に焼く機械を開発しているという、注目すべき技術革新がある。もともと焼き物機はバーナーに汁が垂れると焦げがつき詰まってしまうため、上火で焼いていた。下火から焼くのは電氣ヒーターでないとだめだと言われている。電氣ヒーターの表面は900℃ぐらいまでに上がるため、汁が垂れてもパシッと飛んでしまい煙が出ないからである。スーパーや焼鳥屋が電氣ヒーターを使っている最大の理由は、この煙が出にくいということである。

ガスの場合は、下に赤外線のヒーターがあり、その上にガラスのカバーがかぶせてある。赤外線の上に直接汁が垂れると穴が詰まってしまうためカバーをかけるが、ガラスのカバーは600℃ぐらいにしか上がらない。そのため、汁がこびりつき、小刻みに外して掃除をしなければならない。煙も濛々と上がる。

それが、100%の新鮮な空気を入れて完全燃焼させて高温にするブラストバーナーという新しい技術が開発された。これを下火に使うことによって、備長炭のように800‾900℃まで上げることが可能になった。上火は赤外線で焼き、両面焼きをする技術を現在開発中である。この技術が完成すると、焼き物は現状の半分程の時間ででき、ドライにならずに奇麗な仕上がりになる。

煮る
煮るという分野は、従業員がつきっきりで行わなければならず、煮崩れの問題もあったが、現状を改善するのに低温調理が有効であることが分かってきた。
早稲田大学の教授で保温調理(低温調理)技術の理論を作っている先生がいらっしゃる。その先生によると、煮物に味が染み込みやすいのが100℃ではなく、一度100℃まで上昇し、それから80‾90℃ぐらいに下がったところが、一番味が染み込みやすいと言う。この理論を利用して、一度調理したものを80‾90℃ぐらいで長時間保温しておく調理法を、低温調理あるいは、保温調理といっている。

このような技術の代表的なものが、クックチルや真空調理である。食材をラップなどで包み込み低温で調理しており、歩留まりもいい。最近は三洋電機がクックチルに取り組んでいるが、煮物が味が染みてなかなかいいということを言っている。

低温調理は、スチームコンベクションオーブン、スチーマー、サーモダイン(下に冷蔵庫の大型のような棚があり、その棚の中に液体を通してきて、その液体を加熱して全体を暖めるという<コンタクト調理>機種、スロー調理に使っている)などを使っている。

煮物は、この低温調理技術をつかえば、深夜の無人の厨房で人手が入らず調理でき、沸騰することもかき回すこともなく、食品は包装されているため、煮崩れすることはない。

揚げる
この分野は、ファーストフードの影響が色濃くでており、コンベアタイプのフライヤーが主流になっている。
日本で有名なのは、てんやである。てんやはコンベアタイプのフライヤーで省力化を図り、2人の従業員が約1分30秒で約300食分を揚げられるシステムを完成させた。これは、先程述べたコンベアオーブンと同様に入れる係と出す係の二人でオペレーションが成立するためである。てんやの成功例もあり日米でコンベアタイプのシステムは非常に普及し始めた。

アメリカでは3‾4年ほど前にオートメーションの機械を随分研究しており、自動化のフライヤーというのがでてきた。例えば、POSでオーダーを入れると、コンピューターでつながっており、バスケットに冷凍食品が入る。そしてフライヤーのところまでいって沈めて揚げる。時間が来たらバスケットを上げて油切り台に上げる。というところまで自動化された機種が開発され、すでに35,000ドルぐらいまで市販されている。そのメーカーによると、値段は高いが2年ぐらいで償却できるといっている。

このようなコンベアタイプと全自動化されたフライヤーは、これからどんどん出てくる可能性がある。

揚げ物では、KFCが採用している圧力釜タイプのフライヤーも有名である。フライドチキンは、随液の処理が難しいが、KFCでは釜内を1.8気圧ぐらいにし、水の沸点を115℃ぐらいまで上げて、骨髄まで熱を通している。普通に揚げると、骨髄まで熱が通らないため、骨の髄液が骨の小さな穴から血のように流れ出し、食欲を衰退させる。本当は肉は生ではないが、一般の人が見ると血が出てきて気持ち悪いということになる。その流れ出る随液を止めるには、骨の温度を80℃ぐらいまで上げねばならず、そのために、沸点を115℃ぐらいにまで上げる圧力釜の発想が出てきた。

特許を持っている外食産業は少ないが、KFCがこの圧力釜で調理上の特許を取った最初の企業である。特許は世界各国で確立している。日本でも、圧力釜の調理の特許は日本KFCがもっており、これまで、KFCとい同じ温度カーブは使えなかったが、そろそろ30年で特許は切れる時期である。

蒸す
蒸すという分野は、常圧で、密閉型で、高速で、ボタンを押すとすぐに蒸気が出てくるスチーマーがアメリカで結構開発されている。繊維質も欲しいし調理の時に油を使わないものが望ましいという要望からも、スチーミングが多くでてきている。ボストンチキンがサイドオーダーで提供しているのが、ジャガイモやブロッコリーなど野菜を蒸したものであり、この影響から立ち上がりが速い機種が各種でてきた。
日本のスチーマーは立ち上がりが悪く、メインテナンス性が悪いという問題があり、各社まだ開発途上である。蒸すということに限っては、スチームコンベクションオーブンの代替もできる。

茹でる
日本では麺が好まれるが、麺を茹でることは難しいと良くいわれている。その湯麺機器が、日本で一番技術革新が進みつつある分野であるといえる。茹でる作業は蒸気がでるため、厨房内が高温多湿になる問題があったが、先般の日本のホテルレストランショーでは、この最大の問題点を改善したものが数多く出展されていた。
通常は蓋がしてあり、茹でるときは、バスケットを入れるときに蓋が落ち、バスケットが下に入ると蓋が戻ってくるという構造のもの、これは、全体をテフロンで覆ってあるため、茹でているときも蒸気はあまりでない。また、メーカーによっては茹でていないときは加熱をしないというのもある。これは、麺を茹でていないときには湯がグラグラ沸いていないため、蒸気の発生を最小限にとどめている。

他に、冷凍麺の開発も積極的に行われている。日本そばはまだまだであるが、スパゲティやうどんは冷凍の方が品質が良いといわれている。面のコシというのは、中の中心部と外側の水分率の差が大きければシコシコ感が出るため、茹でてすぐが一番いいが、茹で置きをするため、どんどんアルデンテの状態が失われてゆく。うどんやスパゲティは茹でる時間が長いため、回転率を上げようと茹で置きをする場合が多く見られるが、こうすると麺の水分率が均等になってしまいグニャグニャ感がでてしまうのである。

そういう意味からすると、冷凍麺はアルデンテという状態のまま冷凍できるため、最良の方法であるといえる。しかし、茹麺機を麺が冷凍の状態で使用すると、負荷が大きく温度が下がってしまうという問題がある。最近では、食数が少ない場合は、蒸気で解凍するスチームクッカーという機種が出てきた。このタイプは随分でており、最良のものは日本で開発されたものであると考えている。

ある食品メーカーがミスタードーナツのミスター飯茶に麺を供給しているが、ここで当初最も困ったのが麺茹機である。冷凍麺を使ったが、調理にどうしても時間がかかってしまう。そこで、いままでのスチーム解凍機�麺茹機では約1分か1分30秒かかっていた調理時間を、37秒に短縮できる機種を開発した。加圧した160‾180℃の蒸気を吹きかける構造である。しかし、蒸気を吹きかけると食品の表面で露結して水っぽくなるため、その水をとらなければならない。また、速く水をとることで負荷が減るのである。そのため、下にバキューム装置を付けて脱水し尚且つ蒸気をかける構造にした。これが、たぶん麺の加熱調理器で最も調理時間の短いものである。ただ、かなり高価な機種であるため、採算が合うかどうかが問題である。

このような技術は今後幅広い分野で応用されると考えている。たとえば、どんぶり関係のチェーンでは、具の加熱に蒸気を使えばうまくできるのではないかということで研究が始められている。


アメリカに液体のコーヒーディスペンサーがある。UCCもモコバットというのをやっているが、その開発をもとに、日本でもルー味噌のみそ汁ディスペンサーができている。その応用でみそ汁やラーメンのスープなどいろいろなスープができるようになってきた。まだ、開発途上であるが、これが普及すると、厨房オペレーションも簡単になり、作りすぎによる食材のロスも削減される。
コーラやジュースのディスペンサーも開発が進められており、アメリカやブラジルの濃縮のフローズンを持ってきて使う方法も今後の可能性がある。

冷蔵�解凍技術
冷蔵�冷凍する技術は、窒素冷凍が最も性能が良かったが、最近はブラストフリーザーの性能が向上してきた。

アメリカ�マクドナルドのパティ専用工場では、パティの窒素冷凍を行っていたが、これではコストが高いため、ブラスト冷凍の能力の高いものに切り替える方向である。窒素からブラストに変更することで冷凍コストを半分くらいに削減することが可能だそうである。

クックチル方式は、日本ではなかなかうまく導入できていない。総合的なクックチルを知るキッチンデザイナーが不在で、調理機器とクックチルの組み合わせがうまくいっていないのである。

また、ブラストチラーは、パンに入れた食品を手で移し替える方法が多いが、アメリカでもそのことを問題としはじめ、先日のレストランショーでは、全自動クックチルシステムを出展していた。これは、スチームコンベクションオーブンで調理したものをカートにいれ、そのカート毎ブラストチラーにいれ、急速冷却の終わった食品をそのまま冷蔵する。そしてそのままスチームコンベクションオーブンで再加熱し、そのまま保温室に入れて運ぶ、という一貫したデザインである。これまではメーカーが一貫生産していないため、一つの統一されたカートで全作業工程を移動することができなかったことから、食品を手で移し替えていた。これでは生産性が悪いため、全体の大きさなど総合的な設計をする企業がでてきたのである。

小規模事業所の給食施設では、コストに人件費の占める割合が高くなってしまっており、パナフードシステムのように冷凍食品を置いて電子レンジで解凍するシステムで人件費を削減しようというところまででてきている。これには菱善や柿右衛門などの宅配弁当の技術的背景があり、調理品目がかなり増えている。再加熱は、これまでは電子レンジしかなかったため、加熱時間が5分ぐらいかかったが、現在は電子レンジとエアーインピンジメントで上下から加熱ができ、これまでの半分くらいの時間に短縮できるという機種も開発されている。こうしたものが導入されると、小規模事業所でも素早い解凍加熱ができ、メニューバラエティの可能性が拡大する。

保温技術
「保温の技術」と「小型で高速の加熱機」がNRAでもテーマとして取り上げられており、今後の開発のテーマになろうとしている。9月にはNAFEMで全米の調理機械�工業会展が行われる。ここでは小型の調理器具とクックチルのフルラインがメインになるのではないかといわれている。

日本の場合、ご飯物や湿気物、煮物など、加熱する際にどうしても蒸気が必要なものが多い。蒸気過熱保管庫はこれまであまり使えるのはなかったが、NASAが食品の再加熱と保管について30年ほど研究したデータがかなり出回っており、その結果ファーストフード業界で随分その技術を応用して使えるようになってきている。

バーガーキングでも以前からその技術を応用していたが、パティを焼いたあと10分間パティの状態のまま加湿保管庫に入れてオーダーが入ったら組み立てて出すというシステムを作り、最近それを発展させて最大2時間まで焼いた肉を保管できるという技術ができている。大手ファーストフード�チェーンでは、それを大型化してクックチルと組み合わせて一貫生産しようというコンセプトが出てきた。これがうまく稼働し始めると、クックチル関係の技術がかなり実用化してくるのではないかと考えられる。なぜなら、ファーストフードの小型店舗の厨房は、従来の方法では機器を小型化しなければならず調理能力が落ちることになるが、ピーク前に調理しておき、ピークには通常の調理だけではなく保温庫に保管していたものを使いピークを補うという方法がとれるからである。この方法では瞬間的に通常の2倍の能力が出る。そうすることによって、全体の機械の投資額を押さえることができ、しかも店舗を小型化できるという考え方である。コントラクトサービス分野でも全く同じである。

調理技術に全く新しいというものはなくなりつつあり、今後可能性のあるのは保温技術であると考えている。

私が長年働いてきたファーストフードとコントラクトフードサーブスの厨房を比べると、コントラクトサービスの厨房には少々問題点を感じる。
ファーストフードの設計は、使う側の人間が最初から参加している。機械開発業者と一緒に営業部門が厨房のレイアウトを設計しているのである。ユーザーの希望を導入しているので、その施設の使いやすさやそれぞれの設備で必要とする売上などを積み立てて機械メーカーに発注する。

コントラクトフードサービスの場合、使う側のニーズで開発していない。どうも設計の段階から入っていないのではないか、と感じている。

厨房の作業は、建物のレイアウト作業の時にすでに終わっている。その時、厨房をどこに置くかで厨房の生産性が決まるのである。ところが日本の場合、ホテルも含めて、厨房設計業者が入るのは場所が決まってからのため、どうしても思う通りにいかないという問題がある。日本の場合、厨房設計だけで商売が成り立たないという状況もあるが、アメリカの場合は、クックチル専門のコンサルタントが存在し、精密な設計を施しており、非常に合理的な厨房ができる。日本でクックチルがうまくいかないのは、そのような専門のコンサルタントがいないからなのではないかと思っている。極東全般に目を向けると、韓国の大手ファミリーレストラン�チェーンが現在セントラルキッチンを改修中であり、ニューヨークのデザイナーが設計を担当している。このキッチンが極東で一番大きいクックチル施設になるといわれている。

このように、まだまだ厨房デザインというのは、アメリカから勉強する必要があり、また、ビルを建てる段階から厨房設計を入れることが必要になってくると考えている。

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