危機管理・安全対策(商工にっぽん)

窓ガラスまで黒く着色した黒塗りのワンボックスカーが音もなく店舗に横付けされた。左右のドアが開き、サングラスをかけたガッチリした運転手が散弾銃を手に降りた。もう一人はマグナム44の拳銃を片手に左右を見ながら店の横のドアーより店内に滑り込んだ。拳銃をいつでも撃てるように用意し、横のドアーを合い鍵で開け、厨房の中に入り込んだ。金庫のそばに立ち、マネージャーに金庫を開けさせた。

というとまるで強盗のようなのだが、実は店の売上の集金人なのだ。

筆者は日本マクドナルドに勤務していたときに、米国の店舗に2年間責任者として駐在していたことがある。最初のカルチャーショックがこの売上金の集金方法だ。そばに銀行があるのだが、そこまで納金にいくまでの間に襲われる恐れがあるので、専門の集金会社に依頼しているのだ。

集金車は定時にくると襲われるので、時間は一定でない。集金人は実際に上記のように拳銃を抜きいつでも発砲できるように身構えている。そして、金庫内の内金庫に納められた売上金は、マネージャーの鍵と、集金人の鍵2つが合わないと開かないようになっている。もし店舗のマネージャーが忙しくてもたもたして2分以上時間かかると、集金しないで立ち去ってしまう。余り長くいると襲われる危険があるからだ。

そんなことを言うと、筆者の居た場所がまるで危険なところであるように思われるが、サンフランシスコから80km位はなれたシリコンバレーの中に店舗があり、カリフォルニアの中では犯罪率は低いところで、まあ平均的な犯罪の発生率であろう。

米国で犯罪が比較的に多いのは大都市のダウンタウンだ。ダウンタウンはドーナツか現象のおかげで、収入の低い人しか住めず、その結果スラム街化し犯罪の大きな発生源となって社会問題となっている。そのスラム街の現状はどうだろうか。

マクドナルド社では毎年1日創業者の故レイクロック氏を偲んでファウンダーズデイという日をもうけている。この日は本社員全員が店舗におもむき、店舗の作業を1日行うのだ。この行事は全世界のマクドナルドで行われている。偶然その日に米国本社に滞在していたことがあった。ファウンダーズデイだということで打ち合わせ中の機器開発部の連中とシカゴダウンタウンの店舗に実習に赴いた。店舗に近ずくに従って上に鉄条網が張ってある高い塀が見えたので、「あれは刑務所か」と聞くと、「いや墓場だという。」「ム?何で墓場に鉄条網を張り巡らしているんだ?」「死んだ奴は逃げやしないのに何故だ?」と言ったら、「外から忍び込んで、死人の金歯や装身具を盗むからだ」との返事だった。

なんてところだ思いながら店舗に近ずくと、数件のビルに囲まれたMマークが燦然と輝く立派なマクドナルドの店舗が見えてきてほっとした。ほっとしたのもつかの間、周囲のビルを見ると全ての窓ガラスは破られており、まるでゴーストタウンに迷い込んだようだった。店舗にこわごわ入っていくと、中で食事をしている人が一斉に驚いた顔をして振り返った。驚いたのはこっちだ。全員真っ黒な顔で白い目だけがこちらを向いているのだ。色の白いのや黄色い人種は絶対にこの地区では見かけないからだ。たまに見かけても直ぐにこの世から抹殺されるからだ。そう、我々はなんとシカゴの最も危険なスラム街に紛れ込んだのだ。常々この地区では絶対に立ち入らないようにと注意をされていた危険地区にだ。店舗の運営を担当している運営部が、「お前たちは何時も楽をして、現場の苦労を知らないから親心で楽しい店の経験をさせてやる」という、ありがたい思いやりで我々はとんでもない地区に派遣されたのだ。しかし私は最初はあまり危険を実感しなかった。店内で働きだし、カウンターでお客にハンバーガーを売っていると、横のドライブスルーで働いている、本社のスタッフとアルバイトの会話が聞こえてきた。

「何でドライブスルーの窓を一回毎に閉めて厳重にロックするんだ?面倒じゃないか?」 「閉めないと銃が突き出されるんだ」との答えだった。つまり強盗だ。とたんに私の聞き耳の感度があがった。「何回位やられんだ?」「 週に2回は被害にあっているよ」とけろっとした返事が返ってきた。「そのときどうするんだ?」と聞いたら、レジの金を全部渡すだけだよと、簡単な答だった。それを聞いてどきっとした私は時計を見ると、運の良いことに飛行機でシカゴを出発する時間であった。そこで他の参加者にお先にといって帰りだしたら。夕方まで仕事をするはずだった彼らも、あわてて筆者について帰り支度をし出した。車を運転する本部のスタッフと同乗した筆者たちはマクドナルドの駐車場を一目散に走り出し、高速に入ろうとしたときだ。筆者はあわてて叫んだ「おい、高速の出口に逆行して入っているぞ、気をつけろ」かの本部スタッフは実は恐怖心駆られて、逃げ出すので夢中だったのだ。後で彼らに聞いたら、夕方の外が暗くなるまでいたら間違いなく殺されていただろうとの事だった。危険な環境に慣れた米国人でさえ我を忘れるくらいこわい経験だったようだ。

またある時に社員のトレーニングコースの安全対策の授業を受講したことがあった。その時、教授が店舗で強盗に会った人は手を挙げなさいと言ったら、クラス40人の内全員が手を挙げた。更に2回以上強盗の被害に会った人はその内半数もいたのには驚いた。強盗に襲われたことのない飲食店はないと言って良いだろう。当然、コンビニセンスストアーも同様だ。米国の飲食業では労災の死亡原因のトップは銃による強盗や発砲事件によるとのことだ。そのため、トレーニングコースでは安全対策の授業があり、強盗に襲われたときの対処を具体的にトレーニングしているし、安全管理用のVTRテープも作成している。当然のことながら会社には安全対策マネージャーがおり、授業をしたり実際の店舗の安全対策の指導に当たっている。その内容は以下のようだ。

強盗に対する必要な対策

  1. 設備面での対策
    1. 釣り銭を最小限にする。被害金額を最小にするのが基本だ。被害金額を少なくするには高額紙幣などをレジに入れず、従業員が開けられない金庫などに入れ口をつくりそこに小間目に保管する。1時間ごとに釣り銭以外の売上を封筒にいれ、金庫の内金庫に入れる。内金庫の鍵は店長と集金人の2人の鍵がないと開かないようにしてある。また、当然のことながら金庫は持って行けないような重量で、床に固定してある。 強盗は新聞にでる被害金額を見てその多い店舗をまた襲うのだ。被害金額が少なければそれだけ襲われる危険も少なくなるのだ。金庫内の金庫は店長が持ち日中の安全な時間に勘定し、納金する方が安全だ。アルバイトなどに深夜現金を数えさせてはならない。
    2. 開店と閉店時の注意襲われ易いのは、まず深夜だ。次に開店の早朝などの周囲に人気のないときなのだ。一番危険なのは閉店後だ。閉店時にはまずトイレや、ごみ箱などに人が隠れていないがチェックする。閉店までねばって人が居なくなってから居直って強盗する場合があるので、おかしいそぶりをする人間が居たら注意する。残った人間が外部の人間に合図して襲うこともあるのだ。閉店時には全員のお客様にかえってもらい、すぐに鍵をロックする。閉店後はどんな理由があってもドアーを開けてはならない。電話を貸してほしいとか、忘れものをしたといっても入れてはいけない。丁重にお侘びをしてかえってもらう。
    3. 警報装置強盗に襲われたときに、非常ベルなどを鳴らせるようにする。スイッチをレジのそばの目だたないところに置き、従業員によくトレーニングする。最近では、リモートスイッチを押せば、4カ所に自動的に電話がいくシステムがある。
    4. 裏口のドアーと鍵事務所の扉は自動ロックにし外から簡単に入れないようにする。中から外が見えるように覗き窓を設置したりする。裏口のドアーも同様に常時ロックして置く。24時間営業でないときには閉店時開店時に裏口で襲われるのが多いからだ。裏口には照明をつけ明るくして置くこと。裏口や玄関には邪魔物を置かないですっきりし、犯人が隠れる場所をつくらない。
    5. その他襲われた後に犯人を捕まえることが重要だ。VTRカメラを設置し犯人像を正確にとりそうさに役立てることも必要。店内客席から見えるところに凶器になる包丁やはさみ等の刃物を置いてはいけない。もちろん護身のためでも拳銃の所持はかえって危険だ。
  2. 必要なソフトウエアー強盗を防ぐためには上記の設備の対策が必要だがそれだけでは防ぐことは出来ない。日常の心構えが重要なのだ。
    1. 勤務体制まず、深夜の勤務はマネジャーが最後まで立ち会うことが必要だ。特に危険な金曜日土曜日などの売上の高いときには必要だ。
    2. 店内を外から見やすくする。店内が外から見やすいように窓ガラスにポスターをベタベタ貼らないこと。外から見えないと襲い易いのだ。店内の見晴らしを良くするべきだ。特に大きなビルに囲まれて、外から店内が見えない店舗は危険なので注意が必要だ。
    3. パトロールカーの警官巡回警察官に定期巡回をしてもらうことが重要だ。警察官が頻度高く店舗に買い物にきたり、遊びにきたり、食事をしたりして、従業員と仲良く会話をしていれば、下見にくる強盗も敬遠するわけだ。警察官も人の子だから顔見知りではない店舗の中に入りにくいのだ。なるべく近所の警察の警察官と仲良くして、顔なじみになることが重要だ。
    4. 店長のフロアーコントロールを徹底する防犯とは関係ないように思えるかも知れないが、特に店舗に客が入ってきたときには、いらっしゃいませと目を見ながらきちんと声をかけるべきだ。顔見知りだったら雑談をしても良いのだ。強盗は顔を見られるのをいやがるものだ。また、もし強盗をしようとして店に入ったときに、にっこりといらっしゃいませと声をかけられ、目をあわせたら犯行には及びにくい物なのだ。また、普段から閉店間際に店長が安全を確認しながら挨拶をしていれば強盗も警戒して襲わなくなるのだ。強盗は必ず事前に店舗を訪問して襲いやすいかどうか下見をしているからだ。
    5. 情報の入手強盗犯は連続して近隣の店舗を襲う例が多いので、近隣の店舗警察と協力し、犯行があったら連絡し注意をする必要がある。
    6. 銀行納金時の注意売上金を納金するのは店長や経営者が昼間やるのだが、納金に注意する必要がある。時々異なった経路を使用したり、時間を替えたほうが安全だ。道を曲がるときにも強盗が隠れているかも知れないので、大回りをして安全を確認する。基本的には集金専門の会社に任せ、店舗まで集金にきてもらう必要がある。
  3. 強盗に襲われたとき以上のように注意していても運悪く強盗に襲われたときの対処の方法をしっかりトレーニングして置く必要がある。
    1. ヒーローになるな決して強盗に立ち向かってはならない。幾ら武術の有段者であっても立ち向かってはならない。お金は働けば戻ってくるが命は戻ってはこないのだ。絶対に犯人を捕まえようと思ってはいけない。決してヒーローになろうと思ってはいけない。
    2. 冷静になれレジの内部に必要な釣り銭だけ入れて置けば被害額は数百ドルですむのだ。重要なのは、冷静になって犯人の顔の特徴。鼻、目、眉毛、耳の形、ほくろの位置、服装、なまり、年齢、身長、靴など正確に覚えて置くことだ。この特徴を正確に警察に伝えることにより犯人の逮捕が早くなる。また、逃走する場合に車を使用するのなら、ナンバー、車の色、メーカー名などをすぐにメモし警察に連絡することが重要だ。また、凶器の種類、サイズも重要な証拠になるので覚えるとよい。犯人の観察にはトレーニングが必要だ。強盗が店舗を襲うVTRを見せてトレーニングする。一回見せて「犯人の特徴を言って下さい」と言うのだが、ほとんどの人が正確に言えない。しかし、テープを何回も見せることにより、犯人の特徴を正確に記憶し、表現することが可能になってくる。テープがなくても普段からゲーム感覚でのトレーニングをすることが有効だろう。
    3. 連絡非常ベルがあるのなら、普段から押す練習をさせよう。犯人に分からないように押すことが重要であり、普段から練習していないと、慌てて押すことができないのだ。警報装置を押し、時間を5‾6分稼げば警官が到着するので冷静な対応が必要だ。非常ベルを押せなくても犯人が立ち去ったら、逃走用の車、逃走方向を確認したら、必要なことをすぐにメモし、911番(日本の119番と逆であり、この番号で警察と消防の両方に連絡が付く)をする。次に最寄りの交番、警察、経営者、店長、チェーン本部など必要なところへの連絡を忘れないようにする。慌てると、電話番号がわからなくなるので、緊急用の電話一覧表を電話器のそばにおいておく必要がある。場合によっては犯人が電話を壊していく場合もあるので、最寄りの公衆電話の位置を確認し、電話用の25セント玉などを用意しておくことが必要だ。
    4. 現場の保管犯行後は直ちに店舗を閉め、犯行現場を保存する。犯人の指紋や、靴跡など証拠を他の客に荒らされないようにすることが重要だ。
  4. まとめまた、どんなに注意し防犯設備を整えても襲われるときには襲われるのだ。ハードウエアーの完備も大事だが、一番効果的な対策はトレーニングだ。防犯対策のトレーニングや襲われたときのトレーニングを常時実施する心がけが必要である。以上のように具体的な内容のトレーニングをする。此の内容はマクドナルドだけのものではなく、他のレストランでも使用できるように、NRA(全米レストラン協会)で教材とガイドブックを販売している。
  5. 日本での経験日本の警察が防犯対策で強調するのはハードウエアーの用意と従業員複数対策だ。しかしこれには費用が必要だし、かけた費用の効果が十分にでるかどうかは保証の限りではない。一番効果的な対策はトレーニングだ。防犯対策のトレーニングや襲われたときのトレーニングも大事だけれど、最も必要なのは接客トレーニングだろう。従業員が感じが良く、地元の支持を受けていれば、店舗も忙しいし襲う暇がなくなるのだ。また、犯人の多くは店舗の近くに居住しており、過去に利用した経験があることが多いのだ。利用したときに感じがよい店舗であれば、襲い難くなるのが人間の犯罪心理だ。もし応対がぶっきらぼうで機械的な応対をされたら、襲う方も良心の仮借なく犯行に及べるのだ筆者がマクドナルド社で西日本の店舗の統括SVをやっていた時だ。ある店舗を土地毎購入したことがあった。町の真ん中のものすごく良い土地が安く買えたのだった。ところがその店舗の回りには暴力団の事務所が20カ所以上、しかもさらに難しい住民が住んでいたのだ(差別問題なので具体的に言えないが)。開店準備1週間しないうちに店長は暴力団の事務所に監禁されたり、警察に言っても取り合ってくれないで散々な目にあった。そして、筆者が県警本部の丸暴の課長と直談判し、開店当日には警官立ち会いで最初のお客はつまみ出すという経験をしたことがある。その時には、開店はしたがいいけれどこれからどうなるのだろうと暗い気持ちであった。ところがその後全く問題がなく店舗の運営ができたのである。その秘密は住民に愛されることであった。実は店舗はプレイランドという子供の遊技場を設置した楽しい物であった。周囲の暴力団や難しい人たちも家族持ちであり、日曜には子供連れで店舗に来店したのだ。自分の子供たちが楽しんで遊んでいる店舗を恐喝したりすることはできなかったのだ。暴力団も人の子だったのだ。普通の飲食店やコンビニはすぐ潰れるので競争相手がなく、子供も親が十分な小遣いを与えるので客単価が高く、売上の大変高い高収益の店舗に化けてしまった。感じの良い地元にとけ込んだ店づくりが、店舗を繁盛店にし、かつ犯罪を防ぐ秘訣なのだ。
  6. 店舗以外の安全対策安全対策マネージャーの業務は店舗の安全を教育することと、店舗の安全管理を監査することが主な仕事であった。監査は匿名で行われ店舗に外部からどうやって忍び込むかを実践し、危険度を地区の責任者に認識させるものである。さらに彼の仕事は本社スタッフの安全管理もある。本社スタッフでも最も危険なのは経営陣だ。特に注意しなければいけないのは誘拐だ。そのために家の戸締まり、会社のでは入りなど常時チェックする。特に注意するのは会社と家の出入りのさいだ。出入りの時間と場所をときどき変更し、誘拐犯に襲われないようにする。当然の事ながら、経営陣の家の住所、電話番号は公開しないし、本社に問い合わせをしても教えない。案外油断をし勝ちなのは出張の時であるので、経営陣のスケジュールは外部はもちろん、内部にも公開しない。本社スタッフの安全管理で重要なのは海外出張時の安全対策である。安全対策マネージャーは基本的には、軍隊の諜報部や、グリーンベレー、CIA、FBIなどの安全管理の専門職の経験があり、その経験を生かした連絡網が重要になる。もちろん、米国には安全管理をする会社があるので、そこと契約し、世界各国の危険度を常時観察しておく、。出張届けは必ず安全管理マネージャーがチェックをし、危険な地区には出張をさせないようにする。どうしても出張が止むを得ない場合には対策を立てる。以前、米国の同僚がフィリピンに出張しなければならなかったときがあった。ちょうどアキノ大統領の政権末期の頃で、反米感情の吹き荒れていたときであった。どうしても出張しなければならないと言うことで、当然の事ながらガードマンをつけた。そのガードマンというのが生半可のものでなく、10人の自動小銃を持った殆ど軍隊であった。ホテルの部屋の前まで24時間体制でガードをする。それだけではなく、もし政権のクーデターが発生し町が危険になったときに供え、当時の米軍のスピックス基地までヘリコプターを飛ばして避難できるような手配までしてあったそうだ。こう書くと彼はまるで経営者のように思われるが、普通の平社員である。それでも真剣に安全管理を行うのが米国式の危機予防管理だろう。日本のように安全はただだと思うと海外では良いカモになるのだ。ではマクドナルド以外の会社ではどんな安全管理しているのだろうか、日刊工業新聞記事94年7月25日に米国セブンイレブンの記事があったので紹介しよう>セブンイレブンは警報システムとコンピューターを連動させた。職場で発生する件数の最も多い暴力犯罪は強盗事件であり、職場で発生した殺人事 件の80%は強盗によるものだ。そのうちのおよそ半数は、小売店で発生したもので、 とりわけ食料品や酒類を扱っている店とガソリンスタンドでの件数が多い。犠牲者は、 1人でお金を扱う仕事をしている場合が多く、事件が多く発生する時間帯は午後7時 から午前2時となっている。これらのデータは、米国セブンイレブンの親会社であるサウスランド社がまとめた ものだ。5300軒のストアを抱える同社では、10年前から、情報システムを利用して暴 力事件の発生件数を減らす努力をしている。同社のセキュリティー担当マネジャー、 スコットリンズ氏によると「強盗事件は76年当時と比べ半減した」という。同社は最近、各店舗にコンピューターに接続された監視用の閉回路カメラ/警報シ ステムを設置した。このシステムでは、店員が無線セーフティー装置を携帯するようになっている。店 員が警報ボタンを押すと、システムを管理しているナショナル・ガーディアン・セキ ュリティー・サービセズ社に自動的に連絡される。連絡を受けたナショナル・ガーデ ィアンは、店の近くにある警察署に通報することになっている。成果を挙げたセブンイレブンでは店内で発生した犯罪や暴力事件を、専門のセキュリティ・マネージャーが追跡し、その原因を徹底調査するシステムを作り上げた。マネジャーは、全米各地に8000から900の店舗について情報収集を行ってい る。彼らが集めた情報はコンピューターに入力され、犯罪のタイプごとに、加害者の データ、犯行日時、天候など事件の記録を保存する。そして、このデータをもとに、 犯罪傾向についてリポートを作成し、防犯対策や刑事告発の勧告を行うのだ。このほかセキュリティー・マネジャーは、担当地域の他店にも犯罪が発生したこと を知らせ、注意を喚起する活動も行っている。リンズ氏は「われわれはこのシステムのことを、“ネズミの囲い込み”と呼んでい る。どこかの店を襲った人物が、同じ街にある他の店も襲うという可能性がある。こ ういう場合、マネジャーはコンピューターを使って担当地域の全店舗にこのことを知 らせることになっている。まさに、電子技術を利用した“狼煙”だ」と語っている。 このほか同社では、ナチュラル・マイクロシステムズの「Watson」を利用し、 自動的に各店舗を呼び出して「高額紙幣を金庫に入れましたか?」「店の外から店内 の様子が見えるようになっていますか」といった防犯のためのチェゥクリストを流す メッセージ配布プログラムも実行している。リンズ氏は、このように幾重にも張り巡らされたセキュリティーシステムが効果を 発揮しつつあることを強調、「FBIの犯罪リレポートでは、コンビニエンスストア 業界で強盗発生件数が減っているのは当社だけだ」と胸を張った。
  7. 日本の現状筆者が滞在していたのは10年ほど前であった。米国で強盗が多いのは、銃が簡単に買える。人種問題が複雑でスラム街化して危険なところが多い。麻薬の売買が多くその金を稼ぐために強盗をする。など特殊な状況にあると思っていた。例えば、以前マクドナルドではコーヒーのマドラーはスプーンの形状をしていたが今では平らな細い板の形状だ。また、ストローも自由に取ることはできないようにした。スプーン状のコーヒーマドラーは、1匙のコカインが1gであり、正確な計量に使用された。ストローは半分に切って、糸状に細くしたコカインを鼻で吸入するのに使用される。そのため形状を変更し、手渡しにしたのだ。その位麻薬がはびこり、その金を稼ぐためには強盗も朝飯前であった。 だから日本に帰ったきたときにはホットしたものだ。まさか安全な日本が現在のように危険な国になるとは思ってもいなかったのだ。マクドナルド社は米国式の厳しい安全管理マニュアルと店舗の安全設計をしているので、日本では過去20年以上強盗や外部からの盗難の経験はなかった。しかし94年の9月に東京近郊のドライブスルーの店舗が深夜、銃を持った強盗に襲われ280万円もの売上金を強奪された(後で従業員の狂言強盗であることが判明)。また、94最初にはデニーズが襲われ、10月には同様に東京のガスト、バーミヤンが銃を持った二人組に襲われている。11月にはカーサが深夜襲われ、アルバイトに発砲し重体にさせた。この犯人はガスト、バーミヤンを襲った犯人と同一ではないかと見られている。コンビニエンスストアーの状況も深刻で94年度は200件ほどの強盗が発生したようだ。(詳しくは食品商業95年1月号の筆者の記事を参照)事件に襲われたようだ。警視庁によるとコンビニエンスストアー強盗の全国の発生件数は1989年は29件、1990年は61件、1991年は93件、1992年は127件、1993年は145件、1994年は200件(予測)である。1993年度末の日本フランチャイズチェーン協会に所属しているコンビニ店舗数は2万2852店で、総売上高は約3兆9000億円、店舗数は9年間で3.6倍、総売上高は6.5倍になった。強盗もそれに比例して増加しており、10年前に36件であったのが、昨年は145件、本年予測は200件と急増している。本年になってコンビニの強盗の件数は減少しているが、その反面銃器を使用した強盗事件が続発している。8月の日に起きた八王子のスーパーのアルバイトが3名射殺されると言う事件はショックであった。あんな射殺の仕方は米国ではマフィア同士の制裁の殺し方で最も残酷なやり方だ。3月に米国に出張し、あるサンドイッチ屋に入り従業員のおばちゃんに「日本からかい、安全な国にきて良かったね」と言われてショックを受けた。今の日本は地下鉄のサリン事件、神戸の地震以来アメリカでは大変危険な国であると思われているようだ。日本がこのように危険となった今では小売業に携わる人たちはより注意を払い日々を過ごす必要があるだろう。
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