月刊店舗 2005年2月号

あなたのお店の厨房計画
読んで学んで実行
目指せ!理想の厨房づくり

店のコンセプトを明確に
ホールだけでなく、厨房もきっちりと
使いやすい厨房づくりに挑もう

厨房は、飲食店の心臓部。店づくりに取り組むうえで、店舗オーナーとして最低限知っておくべき厨房づくりの基礎知識と注意ポイントを述べていこう。

「厨房」は店づくりの盲点
失敗せず余計な出費を防ごう

 店づくりにおいて、ホール(客席部分)への関心は非常に高い。お客が集う場所であり、そのデザインによって集客力も大きく違ってくるからだ。
 一方、つい見過ごされがちなのが厨房。オープンキッチンでない限り、お客の目に触れることは少なく、ついおろそかになりやすい。しかし、厨房は「料理」という商品をつくる重要な場所。ひとつ設計を間違えれば、食中毒などを起こし、一瞬のうちにして店がなくなる可能性だってある。店づくりにおいて「厨房計画」は、実はとても重要な位置を占めているのだ。
 そこで、今回、話をお伺いしたのが、経営コンサルタントであり、自ら飲食店オーナーも務める王利彰さんである。
 「確かに厨房は盲点です。適当につくって、いざ店が始まったら厨房が使いづらく、結局、大幅な改修となって余計な出費がかかってしまったという話はよくあるんですよ」と王さん。
 では、失敗しないための厨房づくりに取り組むためには、どうすればいいのだろうか。

厨房計画の第一歩は物件選び
設備を入念にチェックしよう

 その第一歩は、物件選びの際の「設備」のチェックだ。
 「厨房計画というと、焼き台や冷蔵庫といった『機器』のことばかり頭に浮かぶかもしれませんが、意外と見落としがちなのが『設備』なんです」(王さん)。
 チェックしたいのは、電気の容量、ガス管の太さ、排気ダクトの3つ。というのも、業種や業態によって必要な設備が全く違うからだ。たとえば、もとの店が物販やサービスなど飲食店以外の場合、新たにガス管や排気ダクトを設けなければいけないことがほとんどだ。
 飲食店だったとしても、安心はできない。喫茶店だったところに中華など火力が必要な業態にする場合、ガス管を太くする必要がある。焼肉店を開業するなら、通常の排気ダクトでは対応できない。
 新たに設置すると費用はいくらかかるのか、そもそも設置できるのかを事前にチェックしておくことが大事だ。ガス管ならガス会社に、排気ダクトなどは設備業者に問い合わせるといい。
 「あと、忘れがちなのがエアコンです。暑いと作業性が落ちていい仕事ができなくなってしまうので、厨房にエアコンの風がどれだけ入るのか調べておいたほうがいいと思います」(同)。

店のコンセプトを確立すれば
必要な厨房器機が見えてくる

 設備のチェックがすんだあと、いよいよ厨房計画に入るが、そのためにはまず「店のコンセプトを確立しておかなければなりません」と王さん。
 「たとえば、ピザ店を始めたいとします。オーブンで焼くのか、石釜で焼くのかによって必要な機器も違います。また、手作りか否かでも変わります。業務用食材を多く使うなら、それを保存しておく大きめの冷蔵庫や冷凍庫が必要ですし、手作りにこだわるなら作業スペースが必要です。このように、どんな料理を、どんな調理方法で出すのかということを決めてはじめて、必要な厨房器機が見えてくるんです」(同)。
 そして、厨房計画で注意しなければならないのは、厨房スペースの広さだ。狭いと作業しにくくなるが、客席が少なすぎると肝心の売り上げが上がらなくなってしまう。そのため、両方のバランスが大事になってくる。大手チェーンの場合、店舗面積に占める厨房面積の割合は2割程度だが、手作りが多い個人店はもっと広いほうがいい。しかし、それでも4割以内には抑えたいところだ。
 「厨房器機は、新品、中古、リースといろいろとありますが、最近は新品でも価格が下がってきているので、アフターメンテナンスや保証期間の長さを考えると、新品で対応したほうが後々いいと思います。また、最新機器や性能がいいものばかり追いすぎても使い切れないことが多いので、使い慣れたものを導入したほうが賢明です」(同)。

スチームコンベクションオーブンは
蒸して煮て、加熱しての万能機器

 厨房機器で代表的なものというと、冷蔵庫、冷凍庫、焼き台、ガス台、フライヤーなどだが、注意したいのが作業テーブル。ステンレスのつなぎめのない一体型が一見してきれいだが、将来レイアウトを変更したときに思い通りにいかないといった問題もあるため、事前によく検討しておいたほうがいいという。
 逆にお勧めの機器もある。『スチームコンベクションオーブン』がそれだ。高温蒸器で短時間に焼き上げるもので、蒸し物、煮物、真空調理、調理済みの再加熱など、一つの機械でいろいろなことができる。また、温度と時間を正確に調整するので、アルバイトでも比較的簡単に調理ができるというメリットもある。
 問題は価格の高さだが、性能によって価格に大きく幅があるので、こだわらなければ手の届きそうな価格帯のもある。狭い厨房にも置けるので、一度検討してみたいところだ。
 また、厨房器機ではないが、床の素材はいいものを使ったほうがいい。
 「滑りやすくて作業しづらいものや、耐久性のないものは床を替えなくてはなりません。床を直すとなると、厨房器機をすべてどかさなくてはならず、営業も全くできなくなってしまう。そうならないためにも、床の素材はケチらないほうがいいでしょう」(同)。

レイアウトの基本は使いやすさ
自分の意見も伝えよう

 こうして厨房器機をリストアップしたあとにレイアウトに入るが、レイアウトの基本は「使いやすいかどうか」。そのカギを握るのが動線だ。
 厨房内の通路の横幅は、最低でも70cm、2人で動いてすれ違う動きの調理の場合は1mはあったほうがいい。あまり狭くしすぎると、将来調理機器を入れ替えるときにできなくなり、修理も難しくなるからだ。
 調理経験のあるオーナーならそう問題はないが、経験のない人は調理担当者や調理経験者に助言をもらうとよい。そして、肝心なのが業者との交渉である。
 「厨房レイアウトは内装業者が行うことが多いのですが、業者は内装のプロであっても、厨房のことはあまり詳しく知らない場合が結構多いのです。ですから、自分の意見をしっかりといったほうがうまくいくことが多いはずです。また、厨房機器は業者が取り引きしているメーカーのものが自動的に入ってしまうので、気に入った機器があったら、必ずそれを伝えてください」(同)。

作業性や生産性だけじゃなく
安全・衛生対策も怠りなく

 レイアウトと同時に、安全対策にもぜひ取り組んでほしい。
 「以前、高田馬場の飲食店で、従業員が店で寝込んでしまい、ガス台の不完全燃焼によって亡くなってしまったことがありました。こうした事故を防ぐためにも、安全対策は絶対に怠らないでください」(同)。
 不完全燃焼やガス漏れには警報ブザーが有効だ。1台1?2万円ほどで市販されているので、ぜひ購入して取り付けておきたい。
 また、衛生対策も忘れてはならない。O-157の事件を取り上げるまでもなく、衛生管理は店の生命線だ。
 「厨房器機は使いやすいのはもちろんですが、掃除しやすいかどうかも見逃せないポイントです」(同)。
 「また、床はドライキッチンにするのがベターです。ドライキッチンとは、排水溝を設けないで、床を常に乾いた状態にしておくことです。なぜ排水溝を設けてはいけないかというと、排水溝を伝ってネズミやゴキブリが出てくるからです。さらに臭いが逆流してくる問題もあって、いいことは少ないんです」(同)。
 厨房器機の下は、床から15?20cmの高さになるようにしてモップが入れるようにしておくと、清掃しやすく清潔さも保ちやすい。

内装業者は必ず比較するべし
“微調整”で理想の厨房に

 そして、厨房計画で忘れてならないのが業者選び。業者によって厨房知識や価格に差があるため、いい業者を見つけることが重要となる。
 「一番いい方法は、信頼できる知人からの紹介ですが、紹介が難しい場合は、必ず複数の業者に当たってください。実際の施工例を見せてもらったり、店のオーナーにも話を聞き、価格も比較するといいと思います。そのうえで契約することが肝心です」(同)。
 依頼するときのポイントは、予算をはっきりと伝えること。厨房機器は性能などにより価格に大きな開きがあるため、予算を伝えておかないと思わぬ出費を強いられることがある。でも、業者側が予算を把握していれば、その範囲内でできることを提案してくれたり、アイデアを出してくれるのだ。
 「難しいのは、デザイナーとのやりとりです。料理人は、当然、厨房の使いやすさを優先する。デザイナーはデザインを優先します。このバランスをどうとるかが頭を悩ますところなんです。人は自分の専門のことはよく見えますが、それ以外のことは見えない。そこに落とし穴があるんです。自分の意見ばかり通してもいけないし、デザイナーのいいなりでもいけない。その接点を見出すことによって、結果的にバランスのいい店になるような気がします」(同)。
 だが、こうして細心の注意を払っても、必ず小さな改修が必要になるという。現に専門家である王さんも、これまでの経験をフルに活かして自分の店で厨房をつくったが、追加工事が発生したという。
 「『完璧な厨房』をつくることはとても難しいことなんですね。ある意味不可能といってもいいと思います。完成したあとも、『ああすればよかった』というのは必ず出てくる。結局は、微調整しながらやっていくしかないんですね。ですから厨房予算は、当初予算の1、2割増しと考えておいてください」と王さんは忠告する。
 厨房づくりは簡単なことではないが、事前にポイントをつかんでおくことで、少なくとも完成後の追加工事を最小限に抑えることができるのも事実だ。
 「厨房は1日にして成らず」そのことを肝に銘じておきたい。

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