外食産業の衛生対策 HACCPへの取り組みの現状(株式会社 フジ・テクノシステム HACCP実例)

新しい衛生管理の手法   HACCPとは何か
                           
1)飲食店における衛生管理プログラムの現状
 1997年に発生した堺市のO157による食中毒事件以来、飲食店においてもHACCPなどの衛生管理の導入の必要性が出てきた。しかしながらHACCPというのは衛生管理の手順を述べた物にすぎない。食材の供給業者の選定、セントラルキッチンの管理、安全な調理、調理機器の選定、食中毒菌の殺菌、洗剤や殺菌剤の取り扱い、調理機器と建物のプリベンティブメインテナンス、調理マニュアル、衛生管理マニュアル,等,数多くの管理基準やマニュアルの作成も合わせて必要である。
2)米国における飲食店向けのHACCP導入の歴史。
 HACCPは1970年代のNASA(米国航空宇宙局)の宇宙士の機内食用に開発された。開発を担当したのは食品メーカーのピルズベリーであり、子会社にハンバーガーチェーン大手のバーガーキングを持っていた。しかし、米国でHACCPを取り入れたのは主に大手の食品製造メーカーであり、外食産業に認知されるのは1982年過ぎであった。
 1982年にCDCが「オレゴン州で発生した生焼けのハンバーガーにより、大腸菌o-157による食中毒が発生した」と発表したことにより、翌日から大手ハンバーガーチェーンの売り上げが激減し,安全対策としてHACCPの採用を行うようになった。
 さらに1993年の西海岸のジャック・イン・ザ・ボックス・チェーンの大腸菌o-157の食中毒事件を契機に、NRA(全米レストラン協会)がHACCPを外食産業でも取り入れやすいようにわかりやすくした、S.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)という衛生管理システムを作成し,傘下の外食企業に普及を開始した。そのシステムは教科書、VTRなどの教材と共に、日本でいう衛生管理者と同様な検定制度を設けて、受講者に衛生管理者としての認定を行うものだ。NRAは講習会をレストランチェーン従業員のために主催すると同時に、各チェーンのトレーニングデパートメントのために、トレーナー用の講座を開催している。この講座を受講することにより各チェーンは自社のトレーニングにHACCPのシステムを導入する事が可能になった。
3) S.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)
 このトレーニングコースはHACCPの基本を述べたテキスト、講師用、受講者用のテキストブック、スライド、VTRテープで構成されており、一般的には2日のコースで、最終日にはテストを行い、答案をNRAの本部に送付し厳格な採点がされ、初めて認定される。
<NRA HACCP 教材の内容>
FOURTH EDITIN刊行 「 FOOD SERVICE SANITATION」 Frank L. Bryan 他著
The Educational Foundation刊行「Serving Safe Food」テキスト及び教師用教科書
The Educational Foundation刊行 「HACCP REFERENCE BOOK」
The Educational Foundation刊行 Serving Safe Food Video Series
VTRテープ 
<1>Introduction to Food Safety
食品衛生の紹介
<2>Managing Food Safety
食品衛生のマネージメント
<3>Preparation Cooking and Service
食品の下ごしらえ、調理、提供
<4>Receiving and Storage
食材の納入受け入れと保管
<5>Proper Cleaning and Sanitizing
正しい洗浄清掃作業と殺菌
<6>Personal Hygiene
従業員の衛生管理と身だしなみ
<7> Program 1 Receiving to Cooking
食材の納入受け入れと調理
<8> Program 2 Cooking to Cooling
調理と冷却
<9> Program 3 Haccp Case Study
HACCPのケーススタディ
CDROM2枚
 Serving Safe Food
 A Practical Approach to HACCP Instructor’s Guide
4)Serving Safe Food Video Seriesの内容
Managing Food SafetyのVTRテープの内容要約
A Practical Approach to HACCP
<HACCPとは何か>
 HACCPは食材原材料の受け取りからお客様にサービスするまでの食材の流れに焦点を当てた、衛生管理システムだ。システムは7ステップに分かれている。
●第1ステップ
危害を予測する。
自分の調理現場の調理レシピーとメニューアイテムを分析し、その中で食中毒などの危害を及ぼしやすい食材をリストアップする。
次に自調理現場の顧客を分析する。特に老人、子供などの食中毒に対する抵抗力の少ない顧客がいるのかに注意を払う。
それから、調理現場の大きさ、能力、調理機器、従業員の熟練度を検討する。
それらを総合的に見て新しいメニューを導入できるか決定する。
●第2ステップ
重要点管理項目を明確にする。
重要点管理項目とは食材の調理加工工程の中で、食材における食中毒菌の繁殖や汚染を防いだり、減少させられる行程を意味する。特に調理工程の温度管理と時間が重要になる。●第3ステップ
食材を扱うそれぞれのステップにおける基準を明確にする。
●第4ステップ
重要点管理項目を監視する。
●第5ステップ
もし基準からはずれることがあれば、改善行動を起こす。
改善行動の内容は明確で実施できる内容であること。
●第6ステップ
記録を残す。
記録は数字などの簡単明瞭、明確でなければならない。
●第7ステップ
自調理現場のHACCPのシステムがきちんと機能しているか確認する。もし必要なら改善を付け加える。

4)<調理現場に於ける具体的なHACCPの導入方法>
 ではNRAのS.A.F.E(Sanitary Assessmetnt of the Food Environment)を元に外資系のハンバーガーチェーン等がどのようにどのように管理しているか見てみよう。
HACCPとは2つのステップに分かれる。
(1)危害分析、予測
 まずHazard Analysis つまり食中毒や毒物、異物混入などの危険を各原材料別に予測する。勿論使用する全原材料の危険度を予測すればよいのだが、現実には飲食業では1000品目以上の食材原料を取り扱うので全原材料の管理は物理的に無理だし、現実的でない。一番危険な食品は何かを見極めそれに集中して管理することが効果的な安全管理なのである。例えばハンバーグステーキの原材料を考えると、冷凍牛肉、生タマネギ、パン粉、スパイス等が考えられる。ここで最も危険性のあるのが、牛肉だろう。牛肉は一般的にサルモネラ、ブドウ球菌等で汚染されている。いくら冷凍であっても、解凍するときに付着したサルモネラ菌が増殖し食中毒を起こす可能性がある。つまり、牛肉の扱いが最も注意しなければならないことがわかる。
(2)重要な管理項目に優先順位をつける
 次に Critical Control Point、重要管理項目を決定する。では食品加工の重要点管理項目はどうなっているかを、表2を見ながら見てみよう。
 牛肉はサルモネラ菌や大腸菌などで汚染されているから、注意して扱う必要がある。また、冷凍の牛肉の場合でも賞味期限を表3のようにまもり、原材料の納入、調理現場での保管の際に管理しなくてはならない。
 大事なのは増やさない、殺すということである。細菌を増やさず、殺すというのは、温度管理と時間管理である。冷凍の牛肉は受け取り時に冷凍状態でなければならないし、表4の様に受け取り時点の温度はマイナスのー15℃以下でなければならない。そして調理するときには中心温度が68℃まで上がるように加熱する。つまり、保管の時の温度はなるべく低くし、細菌の繁殖を防ぐ。細菌の付着は避けられないし、冷凍状態に保っても細菌は死滅するわけではない。そこで付着した細菌を調理工程で高温殺菌により殺す。食品は図1の危険温度範囲以外の温度におくようにする。
 調理現場に必ず正確なデジタル温度計をおいて定期的に温度を計測し、記録する。温度計測は、開店前、昼のピーク前、夜のピーク前の3回実施し、記録しておく。記録した用紙は3カ月保存する。図2は各商品の調理行程と温度を記録するものだ。これは調理レシピーを作成するときに同時に作成し、定期的にその通りされているかチェックする。最初と手順が変わったり、温度が守られていないと問題が発生するからだ。このチェックの期間も明確に定める必要がある。
 また、調理した食材をの保管期間を定める。日本では保管時間と温度を明確にしていないが、米国では60℃以上、2時間以内の保管である。保温庫の温度状態と、食品の中心温度も定期的にチェックする。
 表3から表9は重要点管理であり、予想される事故、基準、改善行動の具体的な例だ。これを元に食材料種類別に作った管理項目のチャート図が表10から表12だ。
 The Educational Foundation刊行「Serving Safe Food」テキスト及び教師用教科書では最近温度関連の追加情報を出したので参考にされたい。
<1> 4.4℃から60℃の間を危険温度帯と言い、危険な食材はこの温度帯に4時間以上放置してはならない
<2>PH4.6以下の酸性の状態では食中毒菌などは繁殖しにくい
<3>20秒間しっかり手洗いをする
<4> 冷蔵庫に保管してある食材の中心温度は4.4℃以下
<5> 常温保管という温度は10℃以下である
<6> 食材を保管する棚のは床から最低6インチ上でなくてはならない
<7> 氷温帯というのは-3.3℃から0℃の間である
<8> 冷凍食品を解凍する流水の温度は21.1℃以下である
<9> 鳥、詰め物をした肉、詰め物をしたパスタの調理の中心温度は73.9℃で15秒間
<10> 再加熱をする温度はすべて73.9℃で15秒間
<11> 牛挽肉、豚挽肉の調理中心温度は68.3℃で15秒間 
ローストビーフの場合 中心温度  62.8℃で   3分間
                 60.0℃で  12分間
                 54.4℃で 121分間  加熱する                       
<12> 豚、ハム、ソーセージ、ベーコンの調理中心温度は68.3℃で15秒間
<13> 魚やそのほかの食材の調理中心温度は62.8℃で15秒間
<14> 調理後の食品の保管温度は60℃で2時間まで
<15> マイクロウエーブで調理する場合の食材の中心温度は以上の調理温度に対して14℃高くなければならない
<16> 調理後、冷却する場合のホテルパンにいれる食材の深さは2インチ以下
<17> 食器、調理機器洗浄機の配管に於けるリンス温度は82.2℃なくてはならない
<18> 手洗い洗浄の場合の殺菌温度は76.7℃で30秒
 このように年々新しい基準を追加している。

6)<食材料加工別管理項目>
 表の10—12は業態別の具体的な管理手法だ。基本的には原材料の保管の状態、温度、期間、をきちんとチェックリストでチェックし、それを保管する。管理をしていることを立証しなければならないからだ。温度も毎日最低3回は計測し、記録して、その記録紙は最低3カ月は保存する。

<表10>ファーストフード、ファミリーレストランの場合
 ハンバーグパティを自社のセントラルキッチンか食品加工業者の製造工場で加工後冷凍状態で送られてくる。重点管理項目は調理と保温の温度と時間をしっかり守ることだ。調理の温度とはグリドルの温度だけではなく、ハンバーグパティの内部までしっかり温度が上がっているか、部分的なムラはないかまでチェックしなければならない。
 調理機器のメインテナンス、温度調整も定期的に行い、調理品目の温度と同時に調理機器の温度も記録して残しておく。調理をタイマーなどで管理している場合にはその時間のチェックもおこなう。グリドルの温度がハンバーグパティにきちんと伝わるように、ターナーやスクレーパーを鋭くしグリドル表面のカーボンを落とす。マニュアル通りに出来るような教育、記録管理,等を行い温度管理をきちんと実行できるようにする。
 原材料の加工度が高いので、食品製造業者の工場の品質管理がきちんとしていなければならず、HACCPを導入している製造業者を採用するのが望ましい。

<表11>大規模給食のようにハンバーグを事業所で大量に調理し、翌日使用する場合
 重点管理項目は調理現場での加工度が高いほど増加する。調理、冷却、保管、再加熱、保温が重点管理項目になる。
 調理と保温の項目は表10と同様だが、給食などの場合大量に短時間に捌く必要があり、作り置きが必要になる。食中毒の問題点は作り置きであり、その間の温度と時間の管理が悪いと細菌が増殖し事故を起こす。
 調理をして温度を74℃まで上げても細菌は死滅するわけではなく減少するだけだ。そして温度が60℃以下に下がると残った菌が活性化し、快適な温度と水分により増殖し食中毒を起こす。調理後直ちに冷却し、2時間以内に5℃以内に冷却する必要がある。これにより細菌の増殖が最低限度に押さえることが可能になる。その後の保管は冷蔵温度帯で2日間である。此の保管可能期間は冷蔵庫の温度管理能力により異なるので、各調理現場で食品中の細菌検査に基づいて決定する。冷却時間、温度、保管可能期間、冷却後の再加熱温度、保温の温度など具体的に決め、それを管理し記録する。
 一度調理済みの食品でも冷却保管中に細菌は増殖するので、加熱して食べる際に、温度をしっかりと上げて細菌を死滅させる必要がある。再加熱温度は食品を問わず74℃以上である。
<表12>レストランで生食材から店舗でハンバーグを調理する場合
 食材を全て生の状態から調理現場で調理し、調理後すぐに提供し、保管をしないという場合の重要管理項目は調理温度だ。調理温度の管理をしっかり行うため、最低限度、温度計、ストップウオッチの備えをする。
 おろそかにし勝ちなのが冷蔵庫の温度管理だ。冷蔵庫の温度計が狂っていることもあるので、正確な温度計を使用し時々チェックを行う。冷却が十分出来るようにコンデンサーの清掃も必要になる。また、常温保管の食材でも、常温というのは25℃位のことを言うのであり、厨房の中の35℃以上ある様な場所で保管してはならない。また、当然の事ながら虫や、ネズミの害にあわないような、食材保管庫でなければならない。
 原材料保管中や、洗浄、皮むきなどの際のまな板、包丁の共同使用による複合汚染に注意を払う。重点管理は細菌に汚染されやすい食材であるが、危険な食材から作業をする人の手や、包丁、まな板、保管場所を通じて,他の食材や野菜など熱調理を伴わない食材に汚染が広がると大きな事故を引き起こすおそれがある。
 例えば一匹の丸ごとの魚を刺身などに加工する場合の汚染の可能性のある食中毒菌は腸炎ビブリオであり、この菌は海水中に生息しており、魚は全てこの菌が付着していると思って良い。特に腸炎ビブリオや、その他の菌が多いのは魚の鰓や、頭、腸である。そのため、魚を3枚におろす場合にまず、全体を水洗いして頭と腸を掃除する。真水で洗うと腸炎ビブリオ菌は死滅、減少するからだ。そして、3枚におろす前に水洗いし,3枚におろした身を再度水洗いし、水を切る。
 この身をさくにして刺身にする行程は別の包丁、まな板、調理人を使って行わなくてはならない。3枚におろす行程が最も汚染されており、一旦綺麗にした身を汚染してしまうからだ。そのため、下拵えと調理行程は明確に区別しなくてはならない。
 野菜の加工も全く同じだ。洗浄や皮むきをする前の野菜には土壌が付着しており、土中に生息する芽胞菌が存在する可能性がある。芽胞菌は調理などの高熱をかけても死滅せず、かえってショックで目覚め、繁殖を開始し事故を起こす危険があるから、まず、食品に付着しないようにする。

7)<その他の注意点>
<1> 食材の納入受け入れと保管
 HACCPの基準に適合した,信頼の置ける業者から良い安全な食品原材料を受け取るのが基本だ。HACCPに適合した業者がない場合は、その実績を判断したり、工場を視察したりして管理状況を常に確認する。鶏卵や鶏肉、牛、豚、魚介類など食中毒菌の汚染の危険が高い食材は、必ずHACCPを導入している工場から購入する。また、食材の包装形態なども汚染の少ないポーションパック物を使用するなど、なるべくリスクを避けるようにする。 添付の表1はセントラルキッチン又は食材供給業者の工場での必要資料だ。HACCPの認定工場になるには最低限度これらの書類の整備が必要になる。

<2>調理食材の標準化
 ハンバーグパティの調理基準は内部温度が68℃以上15秒間加熱されることだ。
 きちんとした温度に加熱するには性能の良い調理機器(グリドルなど)を,マニュアル通りに使用し、グリドルは普段からきちんとメインテナンスを行い新品と同様に性能を保つ必用がある。
 しかし、どんなに良い機械を正しく使用しても、ハンバーグパティの品質が悪くては一定時間加熱しても内部温度が基準に達しないことがある。その為に,工場におけるパティの製造基準を厳格に保ち、使用する機器、製造工程の温度チェック、使用する肉の部位、水分、脂肪分を指定し、定期的なチェックを行う。そして、工場には店舗で使用するグリドルを設置し、基準通りの温度になるかどうか完成品の調理テストも行う。
 工場では冷凍の食肉をフレーク状に加工し、それを2段階でグラインドして挽肉にし、ミキシングして一定の品質の挽肉を作る。生の原材料の牛肉には一般生菌等が付着しているので、加工中の挽肉の温度が上昇すると菌数が基準以上増加して危険である。その為,グラインド中の製品温度はマイナス2℃±1℃に保たれるようにコントロールする。
温度コントロールのために、炭酸ガスを吹き付けるなどして温度が上昇しないように慎重に工程管理を行う。
 また、製造工程に問題が無くても,倉庫の保管や店舗までの搬送の温度の維持に問題があると、肉が解凍と再凍結を繰り返し、冷凍やけや、乾燥を引き起こし、店舗で正しい調理を行っても内部温度が基準に達しないことがある。
 一般的にはQC(品質管理)の担当者が原材料の牛の農場から、工場の加工、搬送、店舗の調理手順まで一貫して管理し、定期的な品質チェックと業者、従業員への教育を行う。

<3>調理方法の標準化
 ハンバーグパティをグリドルで焼く場合、いくら良いグリドルを使用していても,正しい使用方法を守らないと温度ムラが出る。鉄板の中にサーモスタットを埋め込んでグリドルの温度コントロールを行うが、冷凍のハンバーグパティを焼くときにその上に正確に乗せないと、サーモスタットが感知せずガスに点火しないので温度が下がり生焼けとなる。また、同じ場所ばかりで焼いていると、焼いていないところも加熱され高温になり、次にパティを焼くときにかえって焼けなくなったり、連続して焼いていた場所の温度が低下し生焼けになる。そのために焼く順番や、パターンを決めてグリドルの温度が一定になるように工夫する。
 ハンバーガーなどのファーストフードの時間当たりの売り上げは高いので,販売数を予測し、それに見合った調理機器の能力設定を行う。
店舗の最大時間帯売上設定が25万円であるとする。そのうちグリドルを使用するハンバーガーの売上が40%を占め、平均単価が250円であるとする。そうすると
25万円×40%÷250円=400
つまり400個のハンバーガーを1時間に販売することになる。ということは1時間に400枚のハンバーガーパティを焼くことになる。
オペレーションを小型の45gの冷凍ミートパティの場合でみてみよう。一度に焼く最大の枚数は10〜12枚である。まず、ミートをグリドルの上に並べるのに、5秒間。それから25秒後にミートをターナーでグリドルに密着するように5秒間で押さえつける。そうすると冷凍のミートが解凍を始め、周囲の肉が解けて均一に焼けていく。そのまま25秒間焼く。次にミートをターナーで10秒間で裏返す。ミートに調味料をかけさらに45秒間焼く。ミートに十分火が通ったら10秒間でグリドルから取り上げ、バンズのうえに乗せる。グリドルを5秒間で清掃しカーボンを取り去る。合計時間は2分10秒間である。1時間では332枚のミートを焼くことができるのである。しかし、1時間に400枚が必要なのでもう少し能力が必要である。
 そこでミートを焼く作業を分解して見る。
*バッチ処理のオペレーション
12枚焼いてから次の12枚を焼く
一度に焼く最大の枚数は12枚。
焼成時間は2分10秒間。
1時間で332枚のミートを焼成出来る。
*連続処理のオペレーション
12枚のミートを焼いてひっくり返した後 、次の12枚の ミートを並べる。
70秒毎に12枚の肉を焼成出来る。
1時間で600枚のミートを焼ける。
バッチ処理に対して1.8倍の生産量。
 つまり、12枚のパティを焼き終わってから次のパティを焼くバッチ処理のオペレーションよりも,連続処理のオペレーションの方が能力が高いと言うことになる。次にその作業に見合ったグリドルの能力を設定する。
<4>調理機器の能力の設定
1時間に600枚の冷凍肉を焼くグリドルに必要なガスインプットを算出する必要がある。400枚焼けばよいのに600枚というのは1時間に400枚と言っても瞬間的には600枚分のペースで調理する瞬間があるから余裕をみる。肉を焼くのに必要な熱エネルギーは、内部温度の上昇、外部温度の上昇、蒸発潜熱、などから計算する。45gの冷凍肉であると、水分率、損失水分率により異なるが多めにみても1枚あたり15kcal必要である。600枚をかけると9000kcal必要である。グリドルの熱効率は効率の最も良いもので50%であるから。18000kcalのインプットが必要である。さらに、グリドルの表面の放射熱損失などを考えると、約25000kcal必要である。なお、ガスのインプットのみでなく冷凍肉を置いたときグリドル表面の温度が余り低下すると、肉が煮えたような状態で品質が劣化する。それを防ぐため、グリドルの鉄板を厚くし温度の低下を防ぐ。また、冷凍肉を置いたらすぐにサーモスタットが感知し点火するようにすると、温度の低下を防ぐことができ品質が上がる。このようにパティを焼くグリドルのスペックを決定していく。
 勿論、火力だけでなく、グリドル鉄板の温度の安定性も重要であり、温度むらが少ないように設計し、グリドルの温度の低い周囲ではパティを焼かないようにするなどの基準を明確にする。

<5> 調理機器、厨房のメインテナンス
 正確な温度コントロールのついている調理機器を使用する。しかし、温度コントロール装置が付いているからと言って安心してはならない。どんな機械でも初期の性能が低下したり誤差を発生する。定期的にグリドル、フライヤー、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫などの温度を確認したり、必要なメインテナンスを行う。
<資料その2>プリベンティブメインテナンス。

<6>温度計、ストップウオッチなどの最低限の測定機器
 衛生管理をきちんとするには最低限、正確な温度計とストップウオッチが必要になる。温度計はデジタルの正確な温度計が望ましい。温度計には色々種類があるが、熱電対(サーモカップル方式)の物が応答性もよく食品の温度計測に向いている。熱電対形式の温度計のセンサーには色々種類がある。熱電対というのは異種の金属を合わせた物に温度をかけると微電流が発生し、温度が変わると発生する微電流も変化する原理を利用して温度を正確に計測する。その場合どんな金属を使用するかにより温度の正確性と温度帯が変わるので、計測する対象物により使い分ける。食品の計測温度帯は一般的にマイナスの30℃からプラスの300℃までであり、CAセンサーを使用する。CAセンサーとはクロメルとアルメルの金属を意味する。
 温度計の精度はメーカーによって異なる。精度は通常全スケールに対する誤差パーセントで表示されるから、計測する温度でそのパーセントをかけるとどのくらいの誤差が出るかがわかる。一般的には使用温度帯で誤差が絶対値でプラスマイナス2℃以下の物が必要だろう。CAを使用した熱伝対方式の場合には温度誤差はプラスマイナス2℃くらいが一般的であり、それ以上に高い精度を要求する場合には白金や半導体センサーなどの、温度による電気抵抗の変化を計測する形式の温度計を使用する必要がある。この場合は最大プラスマイナス0.5℃の温度精度でもって計測できる。
 なお、どんな正確な温度計でも使うに従って誤差が発生するので時々温度計の精度のチェックが必要になる。正確な温度計のチェックはメーカーに送り返し、精度をチェックしてもらう必要があるが、調理現場でも簡単にチェックができる。センサーには表面温度と液体を計測するプローブがついているので、液体を計測するプローブを使用しチェックをする。まず、細かく砕いた氷を入れた大きめのステンレス計測カップなどを2つ用意する。一つのカップに冷水を入れよくかき回し、冷却する。その水をもう一つの氷の入ったカップに入れさらに攪拌しよく冷却する。氷が溶けようとする温度は0℃であるからだ。そのカップの中にセンサーを入れ温度を計測する。その際の温度が0℃プラスマイナス2℃であれば問題はない。次に薬缶などに水を入れガス台にかけ沸騰させる。ぐらぐら沸騰した状態の湯の温度を計測し、その表示が100℃プラスマイナス2℃であればよい。
このCAセンサーを使用したデジタル温度計の特性は比較的直線的に温度と比例して微電流を発生するのでこの0℃と100℃の温度が合っていればその他の温度帯での誤差もそれほど大きくならない。このやり方で最低月に一度くらいは温度計をチェックすると良い。また、この温度計を使用し、調理機器や、冷蔵庫の温度が正確かチェックし狂っていたら修正する。表面温度のセンサーは薄いCAの金属帯が鉄板に付着して温度を感知する。CA金属帯が曲がっていたり、鉄板に旨く密着しないと温度計測が不正確になるので、状態を時々確認する。温度センサーは交換可能であり、出来れば普段計測に使用するセンサーと温度チェック用の物を別に用意し、時々誤差をチェックすると良い。
 HACCPのポイントは温度と時間管理であり、ストップウオッチを常時使用する。最近はデジタル時計には殆どストップウオッチとタイマー機能がついている。デジタル時計は防水の物を使用すると手洗い時に洗浄殺菌することが可能で衛生的である。
<7> 正しい洗浄清掃作業と殺菌
 いくら良い食材を使用しても、きちんと調理しても、使用する調理機器やまな板、包丁、食器、鍋釜などがきちんと洗浄殺菌していなくては何にもならない。洗剤を販売するだけでなく効果的な使用方法まで指導できる、洗剤メーカーを選ぶと良い。また、安いだけの殺菌洗剤では殺菌効果が低下しやすい場合があるし、使用方法を間違えると効果が全くない。自動洗浄機用の洗浄用洗剤も同じで、洗剤メーカーは洗剤の供給だけでなく、洗浄機のメインテナンスまで行わなくてはいけない。そのため単に洗剤のコストが安いだけでなくどれだけメインテナンスがしっかりしているかが選択の重要なポイントになる。
<資料 その1 洗剤の知識>
 調理機器の洗浄殺菌も忘れてはならない。まな板、包丁、鍋釜まで洗浄殺菌をすることが必要になる。普通の洗浄機ではケトルなどの大型の調理機器を入れることができない。専用の器具洗浄機を導入することにより衛生状態が向上するだけでなく、作業環境も大幅に向上し従業員の定着率が高まるので検討するとよい。
 その他、スチームコンベクションオーブンなどがあれば、包丁、まな板などの殺菌の必要な機器を簡単に殺菌できるので便利だ。

<8>教育,衛生マニュアル、レシピー、チェックリスト、などの整備
 HACCPの説明にもあったようにマニュアルやレシピーは設備、人、メニューがなどの環境に変化があったときには変更を行う。特に以前に作成した衛生管理マニュアルや洗浄殺菌のマニュアルは時々再点検し、現実に即しているか見直す。マニュアル類はアルバイトやパートタイマーの人たちにもわかりやすい内容でなくてはならない。
<資料 その3 従業員の身だしなみマニュアル例>
<資料 その4 調理機器その他の洗浄殺菌マニュアル例>

<9>従業員の衛生管理と身だしなみ
 最近問題になっているのが従業員の健康保菌者だ。宿泊施設でサルモネラによる食中毒が発生、数百名に上る食中毒を発生し、死亡者まで出してしまった事件を分析してみた。従業員が客が残した卵を使用したデザートを食べ、放置されていたために増加したサルモネラに感染してしまった。自分の体に下痢などの異常があるのに単なる風邪だと思い、勤務を続けた。さらに悪いことにその調理場の習慣では仕事中にたばこを吸ったり、飲み物を調理場で飲んだりという習慣があり、その課程で保菌者の口から手に着いた菌が料理に付着し食中毒を大きくしたようだ。また、料理の味見などをお猪口やスプーンを使用するという基本的な衛生管理の知識が欠如していたという事も問題を大きくしていた。従業員に対する基本的な衛生教育をきちんとする必用があると言うことだろう。
<資料 その4 従業員の身だしなみマニュアル例>

<10>衛生度合いの定期的なチェックと監査
 店舗や、従業員、調理後の食品が実際に衛生的かどうか、定期的にチェックが必用になる。気温、湿度が高くなる梅雨から夏の間は特に注意が必要であり、衛生キャンペーンを行い、従業員の意識を高める。社員は保健所の主催する衛生管理責任者の講習を受けさせておき、衛生キャンペーンを実行できるようにしておく。さらに、食品のサンプルを採取し、専門の検査期間で細菌数の検査を行う。この数字に問題がある店舗はさらに詳細なチェックを受けさせる。自主的な検査と抜き打ちの検査があり、実体に即した衛生度合いをチェックするようにする。あるチェーンでは抜き打ちの衛生監査の結果,一定の基準に達しない店舗には自主閉店を命じるような厳しい監査体制をとっている場合もある。
<細菌汚染度のチェック方法>
(1)各種簡易培地による検査
 最も一般的に用いられている手法で、食品についている菌を簡易培地に採取し、それを培養しどんな菌がどのくらいいるかをチェックする方法である。これは食品中に付着している菌を培養しどんな菌がどのくらいいるかを直接計測する手法である。簡易培地と菌を繁殖させるに必要な温度を維持できる培養用の保管庫があれば誰でも出来る。
 簡易的に細菌数がどのくらいいるかを調べるような一般生菌数と大腸菌だけを検出するコリテップ法があり、8時間くらいで簡単に検出できるので比較的に普及していた。
(2) ATP測定法
 瞬時に測定したいという要望のために,全ての生物中に含まれる化学エネルギーの伝達体であるATP(アデノシン三リン酸)を測定することにより細菌の数や活性度合いを知る方法が最近の主流となっている。培養などが不要で短時間で結果がでるので普及してきている。
<健康診断>
 従業員の検便も重要である。サルモネラ菌の健康保菌者は人口の0.03-0.05%いると言われている。実際にアルバイトの多いファーストフードなどでは従業員の数は数万人に上り、確率的に健康保菌者が存在する。その為に社員だけでなく、全員の検便を行って対処している。サルモネラなどの健康保菌者への対処は普通の病院ではなく、専門の機関に依頼する。
<水の管理>
 年に1回は水質検査をし安全を確認する。水道水を使用する場合でも、貯水タンクを使用する場合には点検穴に鍵をかけ、更に年に一回の清掃殺菌をし水質検査を行う。

<11>設備
 厨房機器の設計だけでなく厨房や店内の空調などの環境設計も大事だ。室温が30℃以上になると細菌が活発に増殖するので、厨房全体の室温が25℃になるように十分な空調能力を持たせる。また、外部の汚れた空気が直接はいらないように,新鮮空気は空調機器のフィルターで濾過して室内に取り入れるようにする。換気と新鮮空気のバランスを計算し、扉を開けたときに外部の汚れた空気が店内に直接流入しないようにする。
 細菌の増殖を防ぐには温度だけでなく,湿度のコントロールも大事で、床に水を流さないドライキッチンを採用し、同時に,排水溝などを通じて外部からネズミやゴキブリなどが進入しないように設計する。
 ネズミやゴキブリなどの有害性物への対策として外部契約業者を使用し、定期的な防虫防鼠を行う。

<12> 最後に
 HACCPのシステムは調理人だけの仕事ではないと言うことがおわかり戴けたと思う。経営者から、食材の購買、新商品の開発者、調理機器や厨房設計担当者、建設設計担当者、本社管理部門、調理現場のサービス部門,教育部門、店舗運営部門,まで会社の全社員が実行しなければならない。
 宿泊施設食中毒対策の例だが、調理人にHACCPの講義と指導を行った後、全体の施設を視察の結果、数々の問題点が発見された。朝食のバイキングを提供する際に、仲居さんが、手で鼻をこすったりくしゃみをした手を洗浄殺菌しないでサービスをしていた。
 サービスで部屋に夜食のおにぎりを出していたが、室温に長時間さらされて危険だった。このサービスを受け付けるのはフロントの予約の係りであり、彼らへの教育も必要だと言うことがわかった。
 食器の洗い場を覗いたら、パートの女性が食器の温度が熱くて冷めるまで待つのが面倒だと言うことで、リンスの温度を殺菌に必用な82℃から60℃まで下げていることを発見した。彼女たちは食器を綺麗にする教育を受けていたが、殺菌に必用な温度を知らされていなかったからだ。
 そこで、社員全員へのHACCP教育を行うことになった。一人でも理解していないと大事故になるからだ。このように一つの食事も数多くの複数の人の手を経ており、全員の衛生に対する理解が必用だと言うことで、単に調理人だけが衛生管理の責任を負っているだけでは問題の解決にならないのが理解できるだろう。
                           以上
<資料 その1 洗剤の知識>   
         
 HACCPを正しく運営するには調理機器の清掃殺菌作業等をきちんとおこなう必要がでてくる。しかしいくら衛生管理が重要であるからといっても、人件費の高騰した現在では効率的な調理器具の清掃殺菌行わなければならない。そこで洗剤の働きと原理から、具体的な種類までを詳細に見てみよう。
<洗剤の働きの原理と、配合成分の知識>
1)洗剤の洗浄力と中性洗剤
 水、洗剤、物理的作用(ブラッシング、撹拌、噴射、循環、振動、温度)の3つの作用が洗浄の3大要素だ。
 例えば、厨房で使用するダスターの洗浄を考えてみよう。厨房で使用するダスターには種々の汚れが含まれる。油状の汚れ(動物、植物性の油)、蛋白質汚れ(卵、ミルク、肉、植物蛋白)、炭水化物汚れ(ご飯、でんぷん、糖分)、無機質汚れ(土砂、金属)、特殊な汚れ、等だ。その汚れは、ダスターの表面に付着したり、染み込んだり、場合によっては変色するほどの汚れだろう。ダスターをきれいにするには、普通の水で洗浄する場合と、中性洗剤をといだ水で洗浄する場合があるだろう。では、水を入れたバケツと、中性洗剤をといだバケツを用意してみよう。
 汚れが付着したまま乾燥したダスターを水中に入れても水がなかなか染み込んでいかないはずだ。そこで、ダスターを手で水の中に浸け、無理に水を染み込ませてみる。それだけでは汚れは落ちてこないはずだ。そこで、ダスターをごしごしこすったりもんだりすると、汚れが落ち、水が濁ってくるはずだ。水ではなく、湯を使用すると汚れ落ちはもっと良いはずだ。このごしごしこするのと、湯を使用するのを物理的な力という。
 では中性洗剤を希釈した水で洗ってみよう。ダスターに直ぐに水が染み込むのが分かるだろう。これを浸透作用という。
 次にダスターをごしごしもみ洗いしてみよう。中性洗剤を使用した方が水の汚れが多いはずだ。これは洗剤が汚れに吸着し、水に溶かすつまり乳化作用が働くからだ。
 次にそれぞれのダスターを絞ってみよう。当然の事ながら、洗剤を使用したほうが汚れが落ちているはずだ。これは、洗剤を使った方が汚れがダスターに、再び付く事がなくなるからで、洗剤の分散作用という。
 水で洗うより中性洗剤で洗った方がきれいになっているだろう。この中性洗剤の主成分が界面活性剤であり、上記の浸透、吸着、乳化、分散の4つの作用をもつ。本来洗浄作業は水でも時間をかければ可能である。しかし、乾いたダスターに水が染み込むのに時間がかかるのは、汚れに水が届きにくいと言うことなのだ。水を乾いたダスターの上に一滴落としてみよう。水は玉のようになって、ダスターになかなか浸透していかないだろう。これは、水の表面張力が布への浸透を防ぐからだ。この表面張力を押さえれば水はダスターに容易に浸透するはずだ。この水の表面張力の力を減少させるのが界面活性剤なのだ。界面とは何かというと、表面のことだ。表面張力を落とすことにより、繊維の中の汚れまで水が達するのだ。これを浸透力という。図3
 汚れまで到達した界面活性剤は親水基と親油基に分かれている。親油基が汚れに浸透して汚れの周囲をとりまいていく。この汚れに付着する作用を吸着という。次に汚れを取り去り、水に取り入れていく。この水に汚れを取り去る作用を乳化という。水が濁っている状態のことだ。
 水にとけ込んだ汚れが、また、ダスターに吸い込まれては困るので、ダスター表面にとりついた界面活性剤は汚れが再度付着しないようにする。この作用を分散作用という。図4。以上の4つの作用が、界面活性剤の働きである。
2)界面活性剤の種類とそれ以外の成分
<界面活性剤は4種類ある>
*アニオン(陰イオン)界面活性剤、
 コストは低いが洗浄力が高いので最も一般的に使用される。
*カチオン(陽イオン)界面活性剤、
 洗浄力はないが、殺菌剤や繊維の柔軟仕上げ剤として使用されている。
*非イオン界面活性剤、
コストが高いが水の硬度に影響されないので、洗浄力を高める必要のある難しい条件
 で使用される。
*両性界面活性剤
水溶液のP.H.によって、アルカリ側で陰イオン系、酸性側で陽イオン系に変わる 
界面活性剤である。洗浄力、殺菌力、柔軟効果を持っているが価格が高いため特殊な 
 用途で使用されている。

洗剤に使用する界面活性剤は、一般的にアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤だ。アニオン界面活性剤が最も多く使用されるが、汚れの対象、条件によっては非イオン界面活性剤も使用される。殆どの場合は数種類の界面活性剤を組み合わせて使用する。
<ビルダー、添加剤>
 中性洗剤は界面活性剤の組み合わせだけでない。水はカルシウムとかマグネシウム等の金属分を含有している。例えば温泉で石鹸を使用してもあまり泡立たないが、それらの水中の成分が邪魔しているからだ。そこで、添加剤のキレート剤を含有させ、洗浄力が落ちないようにする。
 添加剤の効果は、洗剤の効果向上、金属腐食防止、軟水効果、溶解度の向上、粘度調整、泡安定、肌荒れ防止、等いろいろあり、用途により配合を変える。
 中性洗剤を購入する際には単に値段だけで比較しないで配合成分、濃度が使用用途に適合しているかを考慮して、購入する必要がある。
3)化学洗剤
洗剤は中性洗剤だけではない。アルカリと酸性の洗剤が存在し、用途により使い分ける。
<アルカリ洗剤>
 洗剤は全て中性洗剤で良いわけではない。厨房で使用したダスターは油でまみれているはずだ。いくら中性洗剤の濃度を高くしても油の汚れを完全に落とすことは難しいのだ。油の汚れを落とすには、アルカリ系の化学洗剤を使用する。アルカリ度を表すにはPHを使用する。PH7が中性だ。数字は1から14までだ。7より数字が大きくなると、アルカリ度が強くなる。数字が7より小さくなると酸性になる。8位までは弱アルカリであるが、12前後になると強アルカリになり、目に入ると失明の恐れがあるし皮膚を侵す。メーカーによりアルカリ度は異なるので使用説明書を良く読み、取り扱いを十分注意する必要がある。調理現場には最低限、目を保護するゴーグルと、手袋が必要だろう。また、アルカリ、酸性の洗剤は保管場所を限定し、誤って使用しないように容器の色を目立つようにする。
<酸性洗剤>
 髪の毛を洗浄した後、リンス剤を使用する。これはシャンプーの成分と水中の金属分(カルシウム、マグネシウム)が作用し、金属石鹸が出来、それが髪の毛に付着し、ざらざらするためだ。昔は、レモンなどでリンスをしたが、レモンは弱酸性であり、付着した金属石鹸分を取り去る働きがあるからだ。つまり、中性洗剤、アルカリ洗剤、の他に、酸性の洗剤が必要になる。お風呂の清掃する場合に使用するのは酸性の洗剤が多い。
 食器洗浄機でリンス剤を使用するがこれもリンス水の中にカルシウム、マグネシウムが入っており、そのまま高温でリンスすると金属成分がグラスなどに付着し白くなるし、水切れが悪くなるからだ。その為に酸性の洗剤でリンスする。
 酸性の洗剤もアルカリと同様に取り扱いに注意が必要になる。
<洗剤の種類>
 家庭で使用する洗剤だけをを見ても、中性洗剤、ブリーチ、研磨剤、台所用強力洗剤、風呂場洗剤、トイレクリーナー、洗濯石鹸、柔軟剤、シャンプー、リンス、と数多くある。飲食業のように厨房から、客席、建物等、幅広く洗浄するにはもっと数多くの種類の洗剤が必要であり、その特性や使用上の注意点を理解しなければならない。 
1)中性洗剤
 「洗剤の洗浄力と中性洗剤」の項目を参照
2)殺菌剤
<シェイク、アイスクリームマシンの洗浄殺菌>
 調理機器の洗浄は大変重要だ。単に洗浄するだけでなく殺菌をすることが必要である。 保健所による乳製品の検査は大変厳しく、夏になると頭を悩まる。従来は、機械を水でリンスしてから、中性洗剤をといだぬるま湯で洗い、それから水でリンスし、今度は次亜塩素酸ナトリウム100ppmの溶液で5分間殺菌する。それから再度水でリンスするという複雑な作業が必要であった。しかし、ミックスの配合成分は、油脂分と、蛋白質、カルシウム、マグネシウム等であり、中性洗剤では完全に洗浄できないことが判明した。シェイクやソフトクリームミックスを製造している乳製品の工場ではラインの洗浄に中性洗剤を使用していない。それは、中性洗剤では乳脂肪、蛋白、カルシウム、マグネシウムを除去できず、金属分がラインにたまり、乳石となり、細菌の巣になってしまうためだ。ライン洗浄では殺菌よりもまず汚れを落とすことを重視する。汚れが落ちないとその内部の細菌に洗剤が到達しないため、殺菌効果を発揮することができないからだ。
 そのために、特殊なアルカリ系の粉末洗剤を使用する。殺菌効果を出すために次亜塩素酸ナトリウム溶液ではなく、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用する。ある温度にといだジクロルイソシアヌール酸は殺菌効果を出すだけでなく、油脂分と蛋白質を分解する能力が高いのだ。その他に洗浄能力を高めるために界面活性剤を混ぜて洗浄効果を最大限にだす。洗剤を最大限に生かす湯の温度も重要である。熱い方が油脂の汚れ落ちがよいが、殺菌剤の安定性が悪くなる。洗剤に最も適した温度に設定する必要がある。
 更に、カルシウム、マグネシウムが洗浄効果を落とさないように、キレート剤を配合する。泡が立ちすぎると、リンスが大変なのであわ立ちを少なくする配合もする。
 また、機械を洗浄するわけであるから、金属、プラスチック、ゴム部分の腐食がないかが重要だ。その為に腐食防止剤を配合するが、更に腐食度の経時変化を調べ部品の交換時期を明確にする。
 シェイク、アイスクリームマシンの取り出し口にはプラスチック部品を多用するが、プラスチック部品は傷つきやすくそこに細菌が繁殖しやすいと言う問題がある。従来の中性洗剤では浸透力が弱いが、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用すると汚れに対する分解度と浸透度が強く、プラスチック部品が真っ白に綺麗になるために衛生度は格段に向上した。
 殺菌効果を持続させるために一回分づつに洗剤を分け、完全密封した状態にパックし殺菌効果が落ちないように加工する必要がある。また、粉末洗剤であるので、水への溶解性が良くないと、有効でないので粉末粒子の大きさと溶解性の設定をきちんとする。
 この洗浄殺菌剤は高価であるが、清掃時間が短縮出来るので人件費が低く、使用水量も少ないので、トータルコストはかえって低くなると言うメリットがある。洗剤の選定に当たっては単にコストだけでなく、人件費、水道光熱費等、総合的に考慮するべきだろう。
 なお、大腸菌を0にするにはこの洗浄殺菌剤だけでは力不足である。シェイクやアイスクリームを作るには、冷媒を通したシリンダー内部にミックスを入れて冷却し、凍り始めたミックスをスクレーパーブレードで掻き取り、撹拌して粘度の高い飲み物やソフトクリームを製造する。そのスクレーパーブレードはモーターからチャンバーを貫通したドライブシャフトを通して回転される。このドライブシャフトからミックスが漏れないようにゴムのOリングと可食性潤滑剤のグリースを使用する。この部分のグリース内部に混じったミックス内部に大腸菌などが繁殖しやすい。また洗浄ブラシにもグリースが付着するがその内部に細菌が繁殖する。洗浄ブラシとシャフトに付着した潤滑剤グリースを分解する洗剤の使用が必要になる。可食性潤滑剤のグリースに最も適した界面活性剤の配合をした特殊洗剤が必要になる。
<次亜塩素酸ナトリウム溶液(ブリーチ)>
厨房の殺菌剤として一般的に使用されているのは次亜塩素酸ナトリウム溶液だ。一般的には次亜塩素酸ナトリウム溶液濃度が5〜6%の物が多い。購入時に価格で購入を決定する場合が多いが、性能に大きな違いがあるので注意されたい。
使用する場合には水または湯で希釈し濃度が100ppmになるようにする。使用する場合には塩素濃度を計測する試薬があるのでチェックすると良いだろう。殺菌剤を入れた容器は使用しない際にはキャップをしっかり閉め冷暗所で保管する。あまり古くなると殺菌能力が落ちるのであまり大量に保存してはならない。
 <手洗い洗浄殺菌洗剤>
 衛生的にするというとまず大事なのが殺菌剤による殺菌だ。例えば手洗いだが、どうやって洗っているかが重要だ。完璧な殺菌が必要な病院などでは、石鹸で手を良く洗ってからクレゾール液に手を浸し殺菌する。洗浄工程は最も重要だ。洗浄で手の汚れが落ちていれば、汚れの内部に存在する細菌も洗い流されてほんの少ししか残留していないはずだ。手洗いはまず洗浄効果が最も重要なのだ。次にだれでも間違いなく殺菌をすることが出来るという事が基本だ。特にパートタイマーやアルバイトを採用する場合には注意が必要になる。
 手を石鹸で洗ってから塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸で手を殺菌する方法が一般的である。塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤の殺菌効果を利用した物だ。しかし、普通の洗剤は陰イオン界面活性剤なので、両方を同時に使用すると殺菌効果がなくなってしまうという重大な欠点がある。石鹸をよく洗い流してから、逆性石鹸を使用しないと、殺菌効果が打ち消されてしまうのだ。正しく使用すれば逆性石鹸の殺菌力は高く効果的なのだが、 パートタイマーやアルバイトが多いとトレーニングをしても、手洗いを正しくやらない危険がある。
 その対策としては洗浄と殺菌を同時に出来る、化粧品などの殺菌剤に使用されるイルガサンDP300を使用し、洗浄と殺菌をかねるようにした洗剤を使用する。化粧品などに使用する殺菌剤を採用し手いるのは手荒れを防ぐためだ。手荒れをおこすと、ブドウ球菌が発生し食中毒の元になるからだ。採用する際には殺菌剤の濃度と、手あれ防止剤が配合されているかをチェックする必要があり、実際の使用テストが望ましいだろう。現在では殆どの洗剤メーカーがイルガサンDP300入りの手洗い洗剤を販売しているようだ。
 手の殺菌をアルコールで直接行う場合があるが、アルコールの種類や使用頻度によっては手荒れを引き起こすので、使用方法と頻度に注意が必要だ。手洗いは重要であるが、あまり洗いすぎると手が荒れるので、適度な手洗いにとどめるべきだろう。おにぎり、寿司、サラダ等のなまものを作るときには使い捨てのプラスチック手袋を使用し、その外側をときどきアルコールスプレーなどで殺菌するのが望ましい。プラスチック手袋を使用する場合でも必ず手を洗浄殺菌してから装着する。

3)酸性洗剤
シェイク、アイスクリームマシンは乳製品を使用するのでいくら完璧に洗浄しても長い間にはカルシウム、マグネシウム等が溜まって乳石となり、細菌の巣になりやすい。定期的に酸性の洗剤で乳石を除去する必要がある。
 また、スチームコンベクションオーブンのスチームジェネレターや加湿保温庫等は水分中のカルシウム、マグネシウムが沈殿する。やかんを長い間使用していると、内部に白い軽石状の付着物ができるのと同じだ。これは水中のカルシウム、マグネシウムの堆積物だ。これを除去するには酸性の洗剤で溶かし流す。あまり堆積物が厚くなるとなかなか溶けず作業時間がかかるので、定期的に作業をする方が効率がよい。金属によっては酸性の洗剤で腐食が発生するから、用途、金属等機械別にきめ細かく選定する必要がある。

4)強力油落とし洗剤
 厨房では多くの油を使用しているのでそれぞれの用途に応じた効果的な油落とし専用強力洗剤が必要だ。
<グリドルクリーナー>
従来はグリドルの表面のカーボン落としには金だわしなどを使用していたが、ステンレスの破片が食材に混入するという問題からグリドルクリーナーが開発された。グリドルクリーナーの条件はグリドルが高温のまま100℃前後で清掃できるように、耐熱の溶剤と、浸透性が必要になる。
洗浄作業が完璧に行われず、洗剤成分が残留する恐れがあるので、配合成分は食品添加剤などを使った安全な物がよいだろう。一般的には苛性ソーダーが20%前後含まれるのが一般的であり、その他に、キレート剤、界面活性剤、金属腐食防止剤、粘度調整剤が配合される。
また、温度を100℃以下に下げるのに時間がかかると言うことで、最近では高温150—200℃と言う高い温度帯でも使用できる高温タイプのグリドルクリーなが出ており便利になっている。但し高温で効果が出るようになっているのでグリドルが冷めない内に使用しないと汚れが落ちにくい。
<フライヤーボイルアウト>
 フライヤーの熱交換部分は高熱になり油分が焦げ付きカーボンとなる。カーボンは断熱材であり、熱伝達を妨げ、油の温度回復を遅くする。その為に3カ月に一度は洗浄しカーボンを落とす必要がある。堆積したカーボンはグリドルより堅いのでより浸透性の高い界面活性剤と、強いアルカリ成分が必要だ。油槽に水を張りそこに洗剤を入れ30分間ほど煮沸するのだが、フライヤー内の残存油分と、カセイソーダーが反応し石鹸になるので泡が多く立ち、ふきこぼれ、コントロールパネルを痛める危険性がある。消泡剤の配合と、金属腐食防止剤の配合が必要になる。温度は沸点100℃より低い95℃前後で煮沸する。その為にフライヤーが温度コントロールが出来る仕様が必要になる。さもないと油槽から泡が吹き出る危険がある。此のフライヤーボイルアウト洗剤もアルカリ度の弱い物が開発されている。しかし、完全に中性と言うわけではないので取り扱い、特にゴーグルの使用は必要だ。
<オーブンクリーナー>
 コンベクションオーブンの汚れの清掃は大変であり、グリドルクリーナーのような強力なアルカリ洗剤をスプレーし、しばらくしてからふき取る。内部を洗うことが出来ないので、グリドルクリーナーのように食品添加物で作った安全な物が望ましい。
 最近、スチームコンベクションオーブンが増加している。熱交換器の内部やファンの内側まで付着したカーボンを溶解する必要があり、グリドルクリーナーのタイプを使用する。吹きかける際に洗剤の濃度が高すぎるとうまく噴霧が出来ないので、水で薄め粘度を下げて使用する。スプレーには色々な種類があるが、粘度の高い溶液を噴霧出来る特殊なポンプ式のスプレーを使用するのが望ましい。ポンプ内部の部品は耐アルカリ性でなければならない。オーブンクリーナーの基本成分はグリドルクリーナーとほぼ同様であり、最近では低アルカリの安全性の高い物が出ている。
<安全性の問題と取り扱いの注意>
 上記の洗剤は基本的に強アルカリのカセイソーダーを20%〜40%含有しており取り扱いには十分な注意が必要である。目に入れば失明する危険があるので取り扱う際には必ず目を保護するゴーグルや耐アルカリ性のネオプレーンゴム手袋を使用する必要がある。低アルカリであっても皮膚に直接触れたり、目に入ったりすると危険であるので注意が必要である。誤って飲み込んだ場合には、すぐに水やミルクをを大量に飲んで洗剤分を吐き出し、直ちに医者にいく必要がある。また、目にはいった場合には、直ちに水で洗浄し医者にいく必要がある。いずれにせよ洗剤の種類により、毒性と対応方法が異なるので、使用説明書を普段から良く読み適切な対処が可能にするべきだろう。
 最近は安全性の面からアルカリの弱い洗剤が使われるようになっている。アルカリの弱い洗剤の必要性は、調理機器にステンレス以外のアルミを使用する傾向からも必要になっている。クラムシェルグリドルの上側のグリドルは重量の関係からアルミにメッキをしたものを使用しているが、アルカリの強い成分の洗剤であると腐食し、表面が凸凹になる危険性があるので、アルカリ分の弱い洗剤の必要性がある。また、スチームコンベクションオーブンの清掃の際、アルカリ系のクリーナーを噴霧すると発生する蒸気と臭いがきつく作業が危険でありアルカリ分の弱い洗剤の必要性が出てきている。
 各種金属にはアルカリに対するPH限界値がある。鉄鋼は無いがアルミ、亜鉛は10、黄銅は11.5、と金属により異なるので、洗剤使用時のPHを計測し、設定する。
 アルバイトの多い職場等や、ステンレス以外の金属を使用する場合にはできるだけアルカリ分の弱い洗剤の採用を是非検討すると良いだろう。ただし、強アルカリ洗剤より、溶解性が落ちるので、ブラシ掛けをするとか、清掃の頻度の向上や、洗剤の適正量など使用上の注意が必要である。また、安全性が高いといっても洗剤を直接皮膚に触れたり、目に入れることは危険なので、手袋とゴーグルは必ず着用が必要だ。
5)床用洗剤、コンクリートのコーティング
 厨房の床は油分が多く清掃するときに、アルカリ度の高い洗剤で清掃することがあるが、アルカリ分が多いと、コンクリートの目地や、タイルを痛めることがあるので、床専用の洗剤の仕様が望ましい。アルカリ度の強い調理機器用の洗剤で床を洗浄すると、油は落ちるが、リンス性が悪くかえって滑る恐れもある。油落としの能力だけでなく、滑りにくい成分でなくてはならない。また、床の清掃が不十分であると悪臭の元になるので、殺菌剤を含んだ床用洗剤を使用するとよい。
 釉薬のかかったタイル、ガラス、アルミ材をアルカリ度の高い洗剤で洗浄すると、腐食し、ガラスなどは曇り、タイルは艶がなくなり、アルミはざらざらになってしまう。洗剤の特性に留意して使用する必要がある。
 厨房や倉庫に床をコンクリートむき出しで使用すると、強い洗剤で腐食されるし、ひび割れが出てくる。出来たら、コンクリート専用のコーティング剤を使用するべきだろう。
6)窓ガラスクリーナー
 窓ガラスクりーナーの主成分は、界面活性剤とつや出しのシリコン、グリコール、アルコール、などだ。界面活性剤は汚れ落としをする。シリコンは撥水やつや出しの効果があり、仕上がりが綺麗になるので使用される。車の洗車機のワックスは油性のワックスではなく、シリコンを使用する。シリコンを使用すると艶が出て、水がかかっても水滴になり、きれいに流れ落ちる。ただし、日持ちがしないので毎日使用する必要がある。グリコールは車の不凍液と同じ成分だ。粘度があってガラスに付着し清掃性が向上し、寒冷地でも清掃中に凍ることがないからだ。
 つや出しが必要なかったり、寒冷地でなければ普通の中性洗剤でも汚れが落ちるので、十分だろう。特にガラスに輝きがほしい場合にはガラスクリーナーを使用するなど、使い分けると経済的だ。ガラスの清掃の秘訣はダスターなどで拭かずにゴムのスクイジーを使用することだ。やや慣れが必要だが、スピードが速くなるし仕上がりがきれいなので検討する価値があるだろう。スクイジーの使用方法は、パチンコ屋などのガラスを多く使用するビルの清掃業者のやり方を見ると良い。秘訣は、一回ごとにスクイジーの汚れをダスターでふき取り、直線ではなく∞字型にスクイジーを動かすことだ。また、スクイジーのゴムのエッジがきちんとしていないと汚れが落ちないから日頃の交換頻度をきちんと守ることがこつだ。
7)研磨剤
 長く清掃していない、鍋などのカーボンがぎっしりついたりした物は、強アルカリ洗剤を使用しても落ちる物ではない。金ダワシなどでこする必要がある。そんなときにはクレンザーなどの研磨剤が必要になる。研磨剤の主成分は、ガラスの原材料になる珪砂と界面活性剤、アルカリ剤等が主である。研磨自体の能力は珪砂の粒子の大きさに左右される。
 フライヤーなどの油槽についた汚れを毎日清掃する際に、研磨剤を使用するが、油に混入するので、珪砂などの食品に混じっても良い物だけを使用する場合がある。
 金属を研磨する際には珪砂の粒子の大きさにより、傷つき方が異なるので、清掃対象の金属にあった大きさの粒子を選定すると良い。厨房では他の洗剤と混ぜて使用されることが多いのでなるべく、珪砂だけの方が汎用性があって良いようだ。
8)真鍮磨き
 真鍮は金属が柔らかく傷つきやすいので、専用の磨き剤を使用する。この場合も清掃頻度をきちんと守らないと汚れが落ちなくなるので、日頃の注意がいる。最近では真鍮色のメッキがある。メッキは真鍮の様に色が変色しなくて便利だが、間違って磨き剤などをかけてこするとメッキが剥げてしまうので、金属の素材に注意すると良い。
9)家具クリーナー
 日本の清掃方法は何でも水拭きするという基本的な欠陥がある。テーブルとか椅子などの家具を水拭きするのは最も良くないのだ。木で出来た家具はニス塗りしてあるが、ニスが水溶性であり、水で剥離し、汚れが染み込んでしまうのだ。なるべくカラ拭きが望ましいのだ。しかし手指で触れることが多く、手垢が付いて汚くなる。ニスを落とさないで手垢を落とすには専用の家具クリーナーが必要だ。ワックスをかけても良いのだが、客席では臭いが出てあまり向いていないし、作業性が良くない。水溶性のスプレータイプの家具クリーナーが作業性がよい。ただし、一般に市販している物は香料が入っているので、営業時間外のみに使用する注意が必要だ。
 木の家具を使用するにはかなりの手入れが必要だが、どうしても水拭きで済ませたい場合には、家具の塗装をしっかりした物にする。ニスではなくウレタン塗装などをすると耐水性があり良いだろう。市販の家具はウレタン塗装が多いが厚めにかけた方が持ちがよい。
いくら持ちがよいウレタン塗装でも2年位すると部分的に剥がれれてきて、そこから汚れが染み込むので、定期的な塗装をすると長持ちするようになる。
 木部だけでなく、レザーや、プラスチックも家具クリーナーで清掃すると艶が出て汚れがつきにくくなる。一度きれいに清掃した後は、家具クリーナーを含ませた、ダスターで軽く空拭きすれば簡単にきれいになる。
10)ステンレスクリーナー
 厨房で使うステンレスは汚れが目立たないようにヘアーライン加工してある。ステンレスを水拭きで使用すると、水分のカルシウム、マグネシウムがステンレス表面に付着して白っぽくなり輝きが出ない。ステンレスの汚れは、油性のステンレスクリーナーで落とし、同時につや出しをする。ステンレスクリーナーの油性の成分がヘアーラインの細かいところに入り、それが艶を出すのだ。油の付いた指などで触っても跡がつきにくいのはそのためだ。ステンレスクリーナーの欠点は油性の成分のため食品にかかってはいけないと言う点であり、厨房で使用するには注意が必要だ。また、同じつや出しでも家具用とは使い分けするという手間がかかるので、最近は水溶性の家具用クリーナーの溶剤を工夫し、ステンレスには原液、家具には水で薄めた物を使用するようにした物もでている。いずれにせよ、日本的な水で拭き掃除をするという習慣は止めるべきだろう。
11)外部の金属、プラスチックの汚れ落とし
 外部の金属、塗装部分、プラスチック部分は、車の排気ガスや、雨水のカルシウムマグネシウムの水垢がついている。普通の洗剤では落ちにくいのだ。この場合には車用の水垢クリーナーが有効だ。水垢クリーナーで汚れを落とした後ワックスを掛けると効果的だ。最近ではワックスに水垢を落とす成分を混合してあるのが一般的なのでそれを使用すると良いだろう。ただし、ワックス成分中に研磨剤が入っているとプラスチックや塗装部分にダメージを与えるので注意が必要だ。

12)トイレクリーナー
 便器に溜まった、尿石を落とすには酸性洗剤を使用するものが多い。あまり溜まりすぎると落ちなくなるので定期的に洗浄するか、クレンザーなどの研磨剤を使用する必要がある。ただし、研磨剤などには次亜塩素酸ナトリウム等が入っている場合があるので、酸性のトイレクリーナーと混ぜて使うと塩素ガスが発生し危険なので注意しなければならない。
 安全性のために中性タイプのトイレクリーナーが出ているので洗浄性に問題がなければ使用しても良いだろう。アルカリ系の洗剤のところでも述べたが、安全な洗剤は洗浄能力は決して高くないので、清掃の頻度はきちんと守る必要があるという事を理解して使用しなければならない。
<洗剤の安全性>
 食品を調理する機械を洗浄するのであるから、洗剤の安全性は最も重要である。飲食業は安全性が大事であり、使用する機械を洗浄する際に、洗剤が残留したり、それが危険であっってはいけないのである。使用する洗剤の安全性を確認してから使用する義務がある。安全性といってもただ一つだけではなくいくつかの要素に分かれているので、それを見てみよう。
1)環境問題
 洗剤の主成分は界面活性剤である。界面活性剤といっても種類があり、多少の知識が必要だ。10年以上前に合成洗剤の安全性を騒がれたことがある。安全性の中でも特に生分解性の問題だった。使用する界面活性剤が分解されないで残ってしまい、動植物に残留する危険性があるというものであった。現在では、生分解性の高い物を使用するのが当たり前になり、問題は少なくなっている。初期の界面活性剤はABS(分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩)であり、生分解性が悪く問題があったが、現在はLAS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)などの生分解性の良い物を使用するのが当たり前になり問題は少なくなっている。
 もう一つの問題はトリポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩をカルシウム、マグネシウムへのキレート剤として使用することにより、排水が河川などに流れ込んだ際に、栄養素が高すぎ、藻などが発生するという問題である。現在では燐酸塩に変わるキレート剤が使用される用になった。この燐酸塩に関しては日本では厳しい基準があるが、海外の洗剤は水が日本とは比較にならないくらい硬度の高い水のために、まだ、燐酸塩類を使用している場合があるので、使用の際には注意されたい。キレート剤の配合が多い場合は、金属腐食や手荒れが多いので併せて注意が必要だ。
2)毒性
 毒性には、急性毒性と、慢性毒性、重金属類の含有、の3つが考えられる。
急性毒性とはLD50で判断する。どんな物でも一度に大量に摂取すると死亡する危険がある。例えば少量の塩とか、醤油は無害なのは当然だが、それを大量に摂取すると、死亡することがある。そういう意味ではどんな物も安全と言うことはあり得なず、どのくらい摂取したら危険かと言う危険度のバロメーターとして使用される。LD50とは半数致死量という。lethal dose(致死量、死に至る摂取量)の略で、急性毒性を表す数値だ。ある物質を動物に経口投与した場合、それにより50%の動物が死亡する量を動物の体重1kgに換算した数値である。ある洗剤のLD50が4.5g/kgであったとすると、体重50kgに換算すると225gになる。つまりこれだけの量を摂取すると大人でも死亡することになる。ちなみに食塩のLD50は3.7g/kg、つまり、体重50kgの大人が185gの塩を摂取すれば死亡するのだ。つまり此の洗剤は塩より急性毒性という意味で安全と言うことになる。勿論だからといって食品に混入して良いと言うことではない。食品に混入して良いのは食品添加物でないといけないのだ。
 重金属とは、砒素、カドミウム、有機水銀などの毒物だ。これはJISで検査項目が指定されているので、公的機関での調査のレポートがあるはずだから、メーカーに確認すると良い。砒素重金属は基準以下でなければならない。
3)手あれ、 
 次に安全性で問題になるのは、手荒れだ。手荒れを引き起こすとそこにブドウ球菌が発生して不衛生であるばかりか、皮膚障害を起こし、危険なのだ。できるだけ皮膚に優しい洗剤が必要だ。これは配合成分などを見て判断するしかないし、使用して手荒れを判断する必要がある。大手メーカーの家庭用洗剤や業務用洗剤は、皮膚にサンプルをつけ手荒れの問題をチェックしているので、使用する場合にはそれを確認すると良い。しかし、いくら手荒れが少なくしてあると言っても洗剤の目的は油汚れなどを落とすための物であり、手の油が落ちるのは手荒れの原因となるので、洗剤の使用濃度を守り、使用時には保護手袋を使用したり、使用後は保護クリームを使用して手の脱脂を防ぐのが基本だ。
4)洗剤の選定と開発
 洗剤の選定は単に安いからと言うことだけでなく、洗剤を使用することにより、人件費、水道代、光熱費がどうなるかで判断するべきだ。また、洗剤の有効性、安全性を良く確認し購入しないと安物買いの銭失いになるだけでなく、食中毒などの危険もあるので十分な知識と確認が必要だろう。
 新型の調理機器を開発するに当たってどんな方法で、洗浄殺菌するかは重要な問題だ。機械の性能だけでなく、効率が良く短時間で簡単に洗浄殺菌ができるようにすることは大切だ。

<資料その2 プリベンティブメインテナンスシステム:故障予防メインテナンス>

 どんなに良い機械を採用しても、その能力を保つようにしないと、宝の持ち腐れである。機械の性能を維持するには、定期的な点検と、整備が必要である。
調理機器には必ず取扱説明書が添付されてくるのでそれをしっかり読み実行することがまず第一歩だ。取扱説明書には、機械の図面、写真、部品一覧、作動原理、日常の使用方法、壊れた時のトラブルシューティングなど、わかりやすく書いてある。さらに、配線交換などでも、部品が色分けしてありパーツナンバーがあるので、それを発注すれば機械の修理が簡単にできるようになっている。後は説明書通りに交換すればよい。
プリベンティブメインテナンスマニュアルを作成する必要がある場合には、車の始業点検のレベルを参考にするとわかりやすい。
機械を直すことではなく、清掃し、綺麗な状態を保ってもらうことが機械の調子を保つ秘訣だ。車であればドアーやヒンジなどのネジが緩んでいたらドライバーなどで締め付けてもらう。油が切れていたら、油を注してもらうことが必要だ。簡単な清掃と点検で良いのだ。
車の故障で一番多いのは、タイヤのパンク、バッテリー上がり、ファンベルト切れのオーバーヒート等である。ファンベルト等のゴムベルトは厨房機器でも多く使用されている。1年に一回交換すれば壊れてから慌てて交換する必要がなく、売上の損失も少ないのである。
車では、清掃の必要な箇所が多くある。例えば、ラジエターの内部や、エアークリーナーである。エアークリーナーを清掃しないと、空気が十分に入らなくなり、不完全燃焼を起こし、燃費が悪くなり、エンジンの修理が必要な故障に発展し易い。厨房でも、冷凍冷蔵庫のコンデンサーの清掃や、空調機のエアバポレーターフィルターの清掃をしないと、十分に冷えず、また、コンプレッサーを焼き切る事にもなる。
次に必要なのは車に付いてくるのと同様の、分かりやすい説明書と、簡単な工具、チェックリストと清掃点検スケジュールである。
厨房機器故障予防メインテナンスチェックリストは毎日チェックする項目に沿って機械を点検する。週1回、月1回、年1回の項目は、毎日変えて、毎日の作業量を一定になるようにすると良い。日曜、祭日、月末などは、作業量を前もって減らし、年間計画を持って作業を進めて行ける。また、調理現場の人が異動しても、どこをやれば良いか一目でわかるようにして、作業漏れを少なくできる。
また、チェックリストだけでなく点検作業をやり易くする為の、点検作業指示書を作ると誰でも点検作業をできるようになる。文章のみでなく、イラストや写真を入れ分かりやすくする。この指示書がある事により、トレーニングが容易で作業にミスがなくなる。
その他機械の説明書が必要である。これは機械に同封するものである。この説明書は2種類必要である。1つは機械を修理する自社と代理店の作業員が使用する細かい説明書である。もう1つは機械を使用する調理現場の従業員むけの説明書である。機械が壊れてもすぐに修理に駆けつけられるわけではないので、応急処置が必要であるし、場合によっては、電源が入っていないとか、ブレーカーが落ちているだけだとか言う場合がある。
ユーザが最低限度の機械の保守の知識を持つことにより修理代が低下し、食品の品質も向上し、完全に調理することにより安全性も保てる。

<資料 その3 従業員の身だしなみマニュアル例>
㈰手法い手洗いは衛生管理の基本です。次のことをした後には必ず殺菌手洗い
石鹸液で、手を洗って下さい。

腐敗した商品にさわった後
調理前の野菜や、肉、魚などに手を触れた後
髪の毛、顔などを触った後
ハンカチやティッシュ等で鼻をかんだ後
タバコをすった後
洗面所を使用した後
食事をした後
汚れた調理機器、ワークテーブルなどの上、汚れた壁やダスターなどを触った後
段ボール箱などを搬入した後
金銭を取り扱った後
汚れた食器や器具を片付けた後
床にモップをかけたり、ほうきで掃いたりした後
ごみ箱を片付けたり、清掃したりした後
お客様の靴を片づけたり触ったりした後
洗面所を清掃した後

注:仕事につく前には必ず手を洗って下さい。また、30分間に一回は手を洗うようにしましょう

手法いの方法
 手をぬらした後、手洗用洗浄殺菌液をつけます。
ひじまで泡立てて洗います。手のひらはもちろん指の間、つめのまわりもよく洗って下さい。約20秒間、よく手をもみ洗いします。このあと、指先まで完全にリンスします。そして、ペーパータオルで手を拭い、その後アルコールを手に噴霧し手をこすりながら自然乾燥させます。手を洗った後、前掛けやタオルで手を拭いてはいけません。かえって細菌を手に付けることになるからです。(注意:30分間に1回は必ず手を洗います。)
㈪パート、アルバイトの身だしなみ
身だしなみの良いことは働く者にとっては欠かせないことです。
つめはきれいに短くしておき、マニキュアは除光液で落とします。そうしないと爪の間に汚れが溜まり細菌の巣になるし、それに気がつかないからです。
 髪を短く切るか、帽子、ヘアネット、へアスプレーなどを使って髪が落ちないようにきちんと整髪し、えりにかかったり、帽子からだらしなく出ていたりしないようにします。また、もみあげは、ふさふさせず、耳より長く伸ばさないようにします。ひげはきれいにそって下さい。
 きれいなユニフォームを着用して下さい。(ユニフオームが汚ないと二次感染します。)
靴や履き物は厨房専用のものに履き替え外のゴミや細菌を持ち込まないようにしましょう。また、かかとは低くて、すべりにくい履き物をはいてください。安全のため、かかとの高い靴や布の靴、また、運動靴、サンダル、つま先が見える靴の類は禁じられています。また、靴の踵を踏んではいてはいけません。厨房の中で危険です。また、必ず靴下をはいて靴を履きましょう。
 スラックスのすそは、短めにしてあれば汚れにくく、長持ちするので、くつ上までの長さにしてください。
 アクセサリーは禁止です。アクセサリーの小さなすき間などに、汚れやあぶら分が入り細菌が付きます。特に指輪は菌の巣ですから絶対に外して調理をしてください。また、時計や腕輪も菌の巣ですから調理をする際にははずす必要があります。
 化粧、香水等はほどほどにパート、アルバイトユニフォームの洗たくは定期的に行うことが必要です。
㈫禁止されている行為、習慣
 万一感染性の病気の時は休むようにします。もし下痢などの症状がある場合には必ず調理長や支配人、上司に申し出て仕事に従事しないでください。そして直ちに医者の診断を受け、検便をしてください。
 鼻やにきびはいじらないように、顔や頭をさわらないようにします。エプロンやユニフオームで手をふかないようにします。汗や手をふくのに、エプロンとかダスターを使わないで、必ずペーパータオルを使用しましょう。
 資材を直接、床に置くことはさけて下さい。シンクで手を洗わないで下さい。床やシンクにつばをはかないで下さい。
 口をおおわずに、せきやくしやみをしないで下さい。ブドウ球菌などの菌を飛び散らします。
 テーブルをふいたりゴミを捨てた後、商品を扱わないで下さい。モップで汚れた水をシンクに捨てないで下さい。
 かのう、やけど、きりきずがある時はオペレーションを行ってはいけません。傷口にブドウ球菌が繁殖しています。調理長や上司に申し出て食品をさわる業務に就かないようにしてください。
 食器や箸、皿、等をさわる際には必ず洗浄殺菌してからにしてください。指などで直接食品の味見をしないで下さい。
 長い間、封をせずに食品を放置しないで下さい。食事、喫煙は許可された場所でとるようにして下さい。喫煙は非常に不衛生な習慣です。喫煙をするとどうしても指につばがついてしまいます。少量で気がつかないかもしれませんが、このようなつばには細菌がたくさん含まれています。煙にもこのようなつばが入っています。ですから喫煙は必ず決められたところでするようにして下さい。

<資料 その4 調理機器その他の洗浄殺菌マニュアル例>

㈰調理機器の洗浄殺菌
調理機器の洗浄殺菌を行うためには、きめられた正しい手順に従って実施しなければなりません。

(1)洗浄の原則

次のことは社員、パート、アルバイトが洗浄作業を行う際の注意点です。

水の状態と温度:水が汚れていると洗剤の効果が落ちてしまいます。また温度は決めら
        れた基準温度を守って下さい。
洗浄するもの :洗浄するところに合わせて洗剤やツール(ブラシ等)を使い分けて下
        さい。
力 :洗浄作業の原則はまず力を入れてこすり、物理的な力を利用して汚れ
        をとることです。

(2)殺菌の原則

 すべての調理機器と食品の触れるるところは必ず殺菌しておかなくてはなりません。殺菌する前には、よく洗い、汚れを完全に落とし、ゆすいで(リンスして)おいて下さい。汚れの成分が残っていると、いくら殺菌しようとしても細菌を殺すことができないことがあります。つまり洗浄を十分行っていないと、殺菌しても意味がないということです。

シンクの使用方法

湯の温度は45℃〜50℃にして下さい。蛇口から出る湯は通常60℃ですので水を混ぜて適温にして下さい。

最初のシンクに湯を3/4と、それに見合う量の中性洗剤を入れます。
第2のシンクはプレリンスと最終リンスをするために空けておきます。
第3のシンクは殺菌液が入ります。

殺菌液を汚い、油の付いたシンクで使用してはいけません。このようなシンクでは殺菌液の塩素による殺菌効果が薄れてしまうので、殺菌液を準備する前に、シンクの洗浄を必ず行います。殺菌液をつくるには、45℃〜50℃の湯を使用します。熱湯では殺菌効果が弱まってしまい、冷水だと洗剤がなかなか溶けないからです。

㈪調理機器、器具のクリーニング手順

調理機器や器具を洗浄殺菌する時は、次の6ステップに従って下さい。

ステップ1:大きなな物のかすや汚れをとるため、あらかじめリンスし、こすり落とし
      て下さい。あるいは、水に浸しておいて下さい。
ステップ2:最初のシンクで中性洗剤溶液で洗い、第2のシンクで流水の下でリンスし
      ます。倍率は400〜600倍。
ステップ3:第3のシンクでブリーチ溶液(次亜塩素酸ナトリウム溶液5〜6%)を用
      意して殺菌します。倍率は300倍で次亜塩素酸ナトリウム溶液濃
      100PPMになります。状況によって次亜塩素酸ナトリウム溶液濃度100PPM
      から200PPMの間で使用します。
ステップ4:200PPMで最低5分間、100PPMで最低10分間は殺菌液に浸して下さい。
ステップ5:リンスをします。
ステップ6:自然乾燥させます。

乾燥

すべての調理機器と器具は洗浄殺菌した後、自然乾燥させます。タオルやナプキンを使ってふくと細菌が器具に付着し、洗浄殺菌の効果がなくなるからです。

㈫洗浄殺菌した調理機器、器具の取扱い

洗浄殺菌した器具は、きれいで乾燥した場所に床から少なくとも15cm離して保管します。これは、汚れ、はねなどから守るためです。また表に出ている水道管などの下には置かないで下さい。

㈬サニテーションの設備を整えておくことと、洗浄、殺菌等の洗剤の正しい使用

お客様の期待にこたえて最高の基準を確実に提供するために、準備エリア、客席、器具は規定のスケジュールに従ってサニテーションしなくてはなりません。以下にあげるのは毎日または一週間に一回洗浄殺菌するもののリストです。ここには、すべてのものが網羅されているとは限りませんが、食品が直接触れるものは必ず洗浄殺菌するということを忘れないで下さい。

(1)まな板と包丁

まな板の洗浄殺菌は最も重要です。まず、肉と魚、野菜と種類により必ず専用のまな板を使用しましょう。それぞれが汚染されるからです。特に生野菜などを切るときには肉や、魚のまな板を使用しては絶対にいけません。また、まな板に傷が多くついたら交換が必要です。傷口に細菌が繁殖し易いのです。

殺菌洗浄の方法

まず、たわしを良く洗浄し、殺菌する。たわしは最も細菌が繁殖しやすいので、使用した後は油分を良く落とし、殺菌し、乾かしておく。
清潔なたわしで、中性洗剤600倍液で良くこする。中性洗剤液は45〜50℃の湯を使用し、油分がきれいに落ちるようにする。
流水で良くゆすぐ。
食器自動洗浄機で85℃以上の熱湯で洗浄殺菌する。それからアルコールをスプレーし乾燥させる。
洗浄機がない場合、次亜塩素酸ナトリウム溶液300倍希釈の殺菌液に10分間つける。またはまな板の上に清潔なタオルをかけその上から次亜塩素酸ナトリウム溶液300倍希釈の殺菌液をかけ30分間放置する。それから沸騰した熱い熱湯をかける。良くゆすぐ。
洗ったまな板は立てかけてアルコール液をスプレーし乾燥させる。
翌朝はまた、自動洗浄機を通して殺菌してから使用する。
自動洗浄機がない場合は、シンクに次亜塩素酸ナトリウム溶液を300倍に薄めたものに5分間つけ、流水でリンスしてから使用する。それからアルコール溶液をスプレーする。
営業途中も頻繁に洗浄殺菌する。
日中も使用し終わったらすぐに中性洗剤で洗浄し熱湯をかける。時間があれば洗浄機をで殺菌したり、シンクで殺菌する。ときどきアルコールをスプレーする。

包丁も同様に殺菌します。
包丁の場合、つかの部分の割れ目に細菌が侵入し繁殖するのでタワシでよく洗浄し、殺菌液に5分間つける。次に湯を鍋に沸かし全体をつけ10分間煮沸消毒する。

包丁まな板の殺菌は、洗浄機や、十分なシンクのスペースがない場合、スチームコンベクションオーブンなどがあれば、温度を設定して殺菌をします。
ダスター、雑巾
食品が直接ふれる箇所を拭くダスター、雑巾は基本的に色分けし、使い捨てのものを使用してください。
また、直接触れないものも一日3回は洗浄殺菌が必要です。中性洗剤で洗った後、10分間次亜塩素酸ナトリウム溶液につけます。それから濯ぎ、絞って乾燥させてください。完全な殺菌をするには毎日沸騰した湯で10分間煮沸消毒してください。

亀の子タワシ
まな板、包丁を洗浄するタワシは使用する前に、洗浄殺菌する。週に何回かは沸騰消毒する。古くなったものは交換するなど注意してください。

スポンジタワシ
これも細菌の巣ですから、使用前後によく洗浄殺菌するか、煮沸消毒が必要です。

(2)ダスター類の使用について

ダスター類は頻繁に洗浄殺菌しなくてはなりません。ダスクー類は汚れがきちんととれる限り使用し、それから新しいものと交換して下さい。また、常に洗浄殺菌したきれいなダスター類を、1ダースは用意しておくようにして下さい。
ダスター類の洗たくの方法は洗たく方法のガイドを参照して下さい。
まず、ダスターを洗浄します、汚れが残っていると殺菌は出来ません。
ダスターの殺菌、使用は次のように行って下さい。
専用バケツに倍率が300倍になるよう次亜塩素酸ナトリウム溶液をとかして殺菌液をつくります。
きれいに洗ったダスターを殺菌液に入れます。このバケツには最低50枚のダスターが入ります。
きれいなダスターが必要な時には、この専用バケツの中のダスターを出して、バケツ内でよくしぼってからリンスしたのちに使用して下さい。
使用したダスターは使用済専用の別の客器に入れて下さい。
衛生的な状態を保つために、1回ごとに新しい殺菌溶液をつくって下さい。
注意:
専用バケツは中性洗剤を湯にとかした溶液で毎日洗って下さい。
使用中のダスターはお客他の目に触れないいところに置くようにして下さい。

<参考文献>
FOURTH EDITIN刊行 「 FOOD SERVICE SANITAITON」 Frank L. Bryan 他著
The Educational Foundation刊行 「Serving Safe Food」及びVTRテープ
The Educational Foundation刊行 「HACCP REFERENCE BOOK」
大成出版社刊行 「食品製造業者のためのPL法」 監修農林水産省流通局
同友館刊行 「流通業・サービス業のPL対策」 伊早坂昭夫著
中央法規刊行 「 HACCPこれからの食品工場の自主衛生管理」河端俊治、春田三佐夫編
健康産業新聞社刊行 「食品と開発」95年2、4、5、6、8月号
菜根出版刊行 「食中毒の正しい知識」三輪谷俊夫監修、本田武司、竹田美文編
オーム社刊行 「女性のための食品衛生の実際」 西田博著

<インターネット情報>
なお、米国の情報をインターネット経由で殆どの省庁、業界団体、専門雑誌などのホームページから入手することが可能だ。筆者のホームページからそれらのホームページにリンクしているのでご利用いただきたい。1996年10月のケータリングショーのシンポジウム講演議事録を「フードケータリングショウシンポジウム講演テーマ」のページに掲載、1997年3月21日のジョンソン社主催のHACCPセミナーの講演議事録に本日の内容の詳細を掲載しているので参考にしていただきたい。
筆者の会社のホームページは http://www.sayko.co.jp/ 過去の執筆の原稿を一覧で検索できるようにしている。

 そのほか関連のホームページは以下の通り

ホームページ閲覧日 1999年6月16日現在

<GMP>
KAMM & ASOCIATION F.D.A.コンサルタント 
http://www.mcs.net/~dkamm/

learningplus 薬品工業向けコンサルタント 
http://www.learningplus.com/

MEDICOM CONSULTING 薬品向けコンサルタント 
http://ireland.iol.ie/medicom/

<AIB> 
American Institute of Baking 米国製パン工業界  
http://www.aibonline.org/
 
 <JISとISO>
日本工業標準調査会
http://www.jisc.org/

NSFとISO
http://www.nsf-isr.org/

ISO本部
http://www.iso.ch/

日本規格協会
http://www.jsa.or.jp/

通商産業省 工業技術院
http://www.aist.go.jp/index_j.html

 <HACCP>
National Cattlemen’s Beef Association 米国牛飼育団体
http://beef.org/

National Restaurant Association 米国レストラン協会
http://www.restaurant.org/
 
厚生省
http://www.mhw.go.jp/

Center for Food Safety & Applied Nutrition米国厚生省傘下の食中毒と栄養研究会
http://vm.cfsan.fda.gov/

U.S. Department of Agriculture 米国農務省
http://www.usda.gov/

The Centers for Disease Control and Prevention 中央防疫センター
http://www.cdc.gov/

<企業>
ジャックインザボックス 
http://www.foodmaker.com/

シダックス 
http://www.shidax.com/

東京ガスサービスグループ 
http://www.tokyo-gas.co.jp/task/index.html

<雑誌>
Restaurants Institutions
http://www.rimag.com/

Nation’s Restaurants News 
http://www.nrn.com/
             
Meat & Poultry
http://www.meatpoultry.com/
                  
健康新聞社
http://www.ktx.or.jp/~kenkou/o157/o157.html

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