KFC

外食チェーン経営について

コロナ禍でも売り上げを伸ばし絶好調のKFCです。もっともコロナ前2年くらい
から売り上げを伸ばしています。
急回復の裏に、昨年4月に入社した1人の女性がいました。中嶋祐子マーケティ
ング部長です。国内の広告代理店を経て、2012年にKFCブランドのフランチャ
イザーである「ヤム・ブランズ」グループのアジア部門に転職し、各国のKFC
でのマーケティング戦略のノウハウを収集し、日本を中心にアジア各国のKFC
に事例紹介や助言をする役割を担っていたそうです。
2018年3月期に日本KFCホールディングスの業績が急激に悪化したことを受け、
同社の近藤正樹社長とヤム・ブランズのアジア部門の社長、中嶋氏の3者で話
し合いの場が持たれ、中嶋氏が日本KFCホールディングスに入社し、内部から
直接立て直すことを託されたようです。
中嶋さんが行ったのは https://toyokeizai.net/articles/-/291577
によれば

『KFCといえば、収益の大部分をクリスマスに稼ぐ。店舗売り上げが通常時の6
~7倍に拡大するクリスマスキャンペーンは最大の商戦期。2018年は12月21~2
5日の店頭売上高が、過去最高の69億円を記録した。一方で、クリスマス以外
の時期の売り上げを伸ばすことが、長年の課題だった。
顧客調査を行うと、「年に1回利用する」と答えた人が約4割、年に2回が約2割
で、合わせて6割にも上った。店は365日空いているにもかかわらず、特定の時
期にしか利用してもらえなかった。2018年3月期に関しては、需要期であるお
盆とクリスマスを含む第2、第3四半期のみが営業黒字で、残りの2四半期は営
業赤字だった。世界中のKFCを見渡しても、日本ほどクリスマスに売り上げが
集中する国はない。
中嶋氏は、強いところをさらに伸ばすより「弱いところこそビジネスチャンス
」と考え、日常的に利用してもらう戦略へ舵を切る。中嶋氏が戦略の軸に据え
たのが、期間限定商品と割安なセットメニューの「二層戦略」。それまでの商
品施策は、季節に応じた期間限定商品に偏っていた。安売りに頼ることをしな
かったのは、「商品の価値を下げたくない」との自負からだった。価格面での
訴求を控えてきた結果、顧客には「ケンタッキー=高い」というイメージがで
きあがっていた。調査を行っても、「ケンタッキーはおいしいけど高い」、「
特別なときに食べるもの」という声が上がった。中嶋氏は、ここに切り込んで
いく。
オリジナルチキン1ピースに、カーネリングポテト(S)、ビスケット、ドリン
ク(S)。
それぞれ単品で注文すると合計920円(税込み、以下同)のところを、ランチ
タイム(10~16時)限定で、500円のセットで販売することに踏み切った。
「食事の市場のうち、平日ランチはものすごく大きい。だが当社は競合と比べ
て昼間の時間帯や1人客に弱いというデータ出ていた」(中嶋氏)。日本の顧
客データを分析し、そこへ海外での成功事例である「5ダラーランチ(5ドルの
セット)」を応用した。
効果は抜群で、それまで前年割れが続いていた既存店の客数が、勢いを持って
戻った。
500円ランチの効果は大きい。もう1品の「ついで買い」や、夜に来店するリピ
ート客もつかんだ。その結果、「500円」という低価格を武器にしつつ、客単
価も2%以上向上した。
そのほかの月にも、水曜日限定で「9ピース(ニワトリ1羽分)1500円」、「ケ
ンタッキーの全部盛り」など割安感を出したセットを投入し続けた。

二層戦略は、もちろん低価格のみではない。もう一方の季節商品でも手を緩
めなかった。「ヘビーユーザーはワクワクする新商品を求めている」(中嶋氏
)。夏場の定番となったレッドホットチキンに加え、「スパイシーメキシカン
」や「辛口ハニーチキン」といった期間限定商品を割安なメニューと併売する
ことで、一度つかんだ客を飽きさせないようにした。
中嶋氏が切り込んだのは商品の見せ方だけではない。テレビCMなど広告の打ち
方も一変させた。それまでは期間限定商品で来店を促す「一層戦略」だったこ
ともあり、新商品を発売するタイミングで大量の広告を打っていた。しかし二
層にしたことで、限られた予算で両方の魅力をアピールする。そこで中嶋氏が
とったのは、1つひとつのキャンペーンの販売期間を長く取る戦略だ。
発売のタイミングで大量に投下するやり方から、販売期間中コンスタントに一
定の量の広告を打つ形に改めた。「以前は『噂で聞いたあのチキンを食べたい
』と思った頃に来店されて、もう終売していたことがあったのです」販売期間
を長めに設定することで、売り上げの機会ロスを減らしたのです。
従来はテレビCM一辺倒だったが、現在はTwitterや、TikTok、YouTubeといった
デジタルメディアにも広告を出す。当然、マスメディアよりも少ない費用で広
告を打てるうえ、弱かった若年層へのアプローチもできる。あらゆるメディア
に登場することで、どこかでケンタッキーを思い出してもらうことにつながっ
た。
また従来型のテレビCMに関しても、「高畑充希さんを起用したのが非常にハマ
っている」「今日、ケンタッキーにしない?」の奇をてらわないキャッチフレ
ーズとともに、消費者に好印象を与えたようだ。
インターネット注文の画面を改良した。入力工程を減らし、より簡単にネット
注文ができるようにした。ネット注文の割合が増えれば、店側としては需要予
測がより正確になり、廃棄のリスクを抑えられる。客としても、自身のスマホ
で注文から決済まででき、店舗では受け取るだけ。来店時刻に揚げたての商品
を受け取れる。
導入した公式アプリは、1200万ダウンロードを超えた。外食チェーンのアプリ
では、単にクーポンを配信し、店舗やメニューを検索できるだけの仕様のもの
が多い。KFCアプリは「チキンマイレージ」が貯まっていき、ランクが上がる
ほどより多くの特典が受けられる仕組みで、顧客のロイヤルティーを高める。
導入2年目となる今年はデータを分析して、さらなる販売促進に生かしていく
構えだ。』

この成功で現在CMOに昇進した。氏の成功の要因は『前職のKFC親会社のシン
ガポールでは、6年間に3人もCMOが変わったという。その中で、良いCMOとし
て、最初のインド人の上司を例に挙げた。現在、ピザハットのトップに就いて
いるが当時からブレないCMOでした。本当にやるべきことは最後までやり切
れ、と常に言っており、目的を達成するために強い信念を持つ人でした。一方
、悪いCMOは、将来の展望がなく、現在の立場に甘んじてしまう人だと思いま
す」と中嶋氏は語っている。
日本ではKFCはマクドナルドの1/3位の1300店舗で大きく水をあけられてい
る。しかも店舗は小型で売り上げ規模はさらに小さい。しかし、巨大なマーケ
トの中国では逆に、マクドナルドの3倍の店舗数で、店舗の規模は同じだ。そ
の要因は、幹部に、MBA を取って、P&Gで鍛えられた2名の存在がある。彼ら
は明確な戦略を打ち出し、当時低迷していたマクドナルド台湾から人材を獲得
し大進撃を行ったのです。

 以下、当社の劉の博士論文「起業家精神の育成と経営者教育」を紹介しま
す。
http://sayko.co.jp/food104/jinzai.html
KFCは外食産業として中国に早くから進出を開始し、1987年11月12日天安門広
場に1号店を開きました。9年後の1999年6月100号店を開店、18年後2005年に
1400号店開店と、前の9年間の14倍の開店数と加速しています。マクドナルド
は3年遅れて、1990年に香港郊外の深せんに1号店を開店しています。
進出方法を見てみると、当時の中国はまだ外国資本に開放せず、中国語と英語
を話せる人材を確保するため、シンガポール、香港、台湾といったバイリンガ
ルの地区にアジアの支社を構え、それから中国に進出する方式をとっていまし
た。しかし、欧米人はシンガポール、香港、台湾は言語と文化で大きく異なる
ことを知りませんでした。シンガポールの中国語は福建語、香港は広東語です
が、台湾は北京語を標準語に定め、中国の歴史をきちんと教えているという事
実を理解していませんでした。マクドナルドは店舗展開で成功した香港経由で
中国に進出し、香港郊外の深せんに1号店を開店したのですが、この進出計画
は、言語や文化の相違を理解しない進出でした。中国本社を香港に構え、2010
年になって、漸く本社を上海に移しました。
KFCは香港の店舗展開に失敗しましたが、文化と言語の面で中国に近い台湾経
由で中国に進出することにしました。1号店を首都の北京に開店し、その後、
本社を中国の消費地の中心である上海に構えました。1号店を首都の北京に開
店したことは後に政治的、パブリシティ的に大きな影響を与えることになりま
す。
当時の中国KFCの経営トップのSu氏は台湾生まれ、米国に留学しペンシルバニ
ア州立大学でケミカル・エンジリアリングの分野で修士号を、さらにペンシル
バニア大学大学院ウオートン校でMBAを取得し、Proctor & Gambleでドイ
ツ、台湾で勤務した経験をもっています。1989年5月にKFC社に北太平洋地区マ
ーケティング部長として入社し、4店舗しかなかった1989年12月に中国KFC 社
の社長となり、1994年にピザハット部門の責任者も兼任するようになり、現在
、中国KFC社は中国、タイ、台湾を管轄地域としています。さらに米国本社Yum
ブランド社の副会長にも就任しています。
中国KFCの元副社長のWarren Liu氏は台湾出身。後に米国留学で教育を受
け、ハーバード大学でMBAを取得しました。Liu氏は中国KFC社に1997年から3年
ほど務め、取締役副社長として勤務し、サプライチェーン、新店舗開店等の出
店計画、商品開発、品質管理、情報システム等の責任者として活躍しました。
中国KFC社を退職後、「中国KFCの成功の秘密 KFC in China Secret Reci
pe for Success」で中国KFCの成功要因を次のように10あげています。

<1>人材 台湾を活用
<2>戦略 長期ビジョン 当初より内陸部も開発計画
<3>提携 地元 政府との関係 危機管理
<4>商品 好みは豚・鳥・羊・牛 店内を好む
<5>サプライチェーンの構築 ローコストの構築
<6>不動産開発 中国では土地私有はできない。専門家が必要
<7>素晴らしい運営 教育とモチベーション
<8>ローカライゼーションとグローバリゼーション 商品開発の速度
<9>本社のサポート 本社ではなくサポートセンター
<10>中国文化を融合したリーダーシップ MBAの中国人の活用

<1>人材
KFCは台湾の言語と文化的な背景に注目し、当時低迷していた台湾マクドナ
ルドの人材をスカウトし中国展開を開始しました。当初から、経営トップは台
湾出身の中国人Su氏で現在も変わりません。マクドナルドは香港経由で香港人
を活用しましたが、トップの人材は米国人でした。現在でも中国マクドナルド
のトップは米国人で、数回の交代をしています。

<2>戦略
KFCは当初より長期ビジョンを持ち、急成長している沿岸都市だけでなく、
内陸部まで店舗展開を計画しました。そのため、大都市の店舗数ではマクドナ
ルドとKFCは大差ないように見えますが、内陸部で大きな差となっています。

<3>提携 地元 政府との関係 危機管理中国での店舗展開の初期段階では、
外資単独では難しいので、地方政府などと提携して各地で合弁会社を設立し、
緩い連携で運営を開始しました。その後、集中管理を強め、中国政府の外資10
0%認定に伴い、中国KFC(中国Yum!社)を設立し、早い時点で上海に本社を設
立し、教育も同時に行い始めました。KFCで使用する食材に認められていない
着色料の使用が発覚したり、鳥インフルエンザ等の発生に対する、対処とし
て、政府などとの提携関係を生かし対処することができました。

<4>商品とマーケティング食肉の好みは1番が豚、2番が鳥、3番が羊、4番目が
牛。牛肉が中心のマクドナルドよりも、鶏肉が中心のKFCの方が有利でした。
他の国では圧力釜で揚げたフライドチキンが中心で売上の多くが持ち帰りです
が、中国では外食を楽しむ習慣があり、店舗で食事を楽しめるように200~300
席の大型店舗にしました。

<5>サプライチェーンの構築
中国KFCは自ら食材を供給する優秀な農家、畜産業者と物流を担う卸問屋、
物流業者を育成しました。最初は小さな中国地元企業の育成から始めていま
す。マクドナルドは米国の供給業者に中国進出をさせ、初期から巨大な食品工
場や流通システムを構築しています。そのために、KFCとマクドナルドの食材
コスト構造は大きく異なり、マクドナルドはなかなか利益が出しにくい状況に
なっています。現在のKFCの店舗段階の利益は人件費が低いため20%と他の国の
倍以上の水準であり、これにはサプライチェーンの構築が大きく貢献していま
す。

<6>不動産開発
私有地が認められていない中国では、土地を管理する地方政府との交渉が重
要です。そのために、地方政府と合弁会社を作ったり、現地の不動産事情に詳
しい中国人をスカウトして対処しています。

<7>素晴らしい運営
上海本社にトレーニングセンターを設置して、中国人社員の教育に当たって
います。年間の最優秀社員は報償として米国本土訪問とCEOのジム・ノバック
氏との会食と言う名誉を与えられています。現在では殆どの経営陣と社員は中
国出身者が占めるようになりました。

<8>ローカライゼーションとグローバリゼーション
米国や海外のKFCの売上の60%がフライドチキンですが、中国KFCは鶏肉を使
ったハンバーガーを数多く開発し、マクドナルドに対する差別化に成功しまし
た。

 中国における商品開発の点で、上海に本社を構えるKFCは迅速な意思決定を
行うことができるし、経営トップに中国人がいるために中国人の好みを理解で
き、現地に溶け込んだ商品開発に成功しました。
それに対し、マクドナルドは商品開発が中国本土の端にある香港で行い、新
商品の認可を米国本土にうかがうため、新商品開発で後れをとってしまいまし
た。

<9>本社のサポート
上海にある本社はサポートセンターと言う名称で、各地域を指示する本社で
はなく、支援を行う存在であると明らかにしています。

<10>中国文化を融合したリーダーシップ
経営トップと副社長に米国で高度な教育(MBA)をうけた人材をあて、長期
経営をゆだねています。

参考文献
Darden Bob (2002) Secret Recipe: Why Kfc Is Still Cookin&#39; After 50
Years&quot; Tapestry Press
Warren Liu(2008)KFC in China Secret Recipe for Success John&sons(As
ia)Pte Ltd

ここで私が注目したのはトップのSu氏が、Proctor & Gambleでの経験があるこ
とです。
これらの成功によりYUM社ではProctor & Gamble出身者を複数雇っているよう
です。
Proctor & Gambleは海外でのマーケッティングが大変上手で、米国内から海外
進出が必要な米国大手外食企業に注目されているのです。不振に陥っていた日
本マクドナルドを再生したのはCMOだった足立氏だったのは有名な話です。そ
の足立氏はProctor & Gambleでの経験を以下のように語っています。

『P&G以外にもブランドマネージャー的な制度がある会社はありますが、ブラ
ンドマネージャー制の長所は、在庫から売り上げ、最終的にどのように利益を
出すかという点まで、そのブランドの全部を見るところにあります。そういう
意味では小型版社長というわけです。マーケターを育てていくという観点では
、ブランドマネージャーのような経験を企業が早い段階で社員に積ませ、俯瞰
する能力を身に付けさせることが大切だと思います。
マーケティングの極意というほどではないかもしれませんが、2つポイント
があります。
1つは、論理だけではなく感情で周りに動いてもらうことです。マーケティ
ングというのは、自分では作らないし、自分では売らないし、自分だけでは何
もできません。周りの人に動いてもらって初めて成立する仕事です。いくら論
理を積み上げても、人が動くのは9割が限界ですね。感情面でグッとくるもの
がないと、心の底から思い切って動いてもらうことは難しい。人に動いてもら
うためには、感情的な側面をうまく活用する必要があります。
もう1つはマーケティングの中身のほうです。これはコンサルタント時代に
気づいたのですが、論理から考えていくと、なかなか心に響く打ち手が出てき
ません。逆に、「こうすればうまくいくのではないか?」というアイデアをま
ずたくさん出すことが大切です。その中で「なぜこれはうまくいくと思ったの
か?」というアイデアから、逆算して論理にしていきます。先にアイデアあり
きなんです。アイデアがない論理は机上の空論に近くて、それでは人は動きま
せん。みなさん「クリティカルシンキング」といって、とかく論理的に考えよ
うとします。確かに何かを実行するときに論理があるのは当たり前ですが、そ
れだけではお客様の心を動かす施策はなかなか出てきません。論理からではな
く、「これは!」というアイデアをまずたくさん考えることをおすすめしま
す。
ビジネスなので、ロジックがあるのは当たり前ですよね。しかも、きちんと
した戦略は、人によってそれほど違わないものです。アイデアを出すのは個人
のスキルというより、その人がどれだけ消費者視点を持っているかだと思いま
す。
マーケティングの施策をつくるとき「自分が消費者だったらどう思うか?」
ということに尽きるんです。結局、みなさんがビジネスをやる側に立ちすぎて
いて、お客様の視点に立っていないことが問題なんです。みんなお客様ですよ
。我々も消費者です。コンビニに行ってお茶を買う。これも立派な消費者なわ
けです。大事なのは、一般消費者としてどう思うかなんです。「どうすればも
う1回、マクドナルドに行くだろうか?」「自分だったら、こんなことがあっ
たらもう1回行くな」ということを突き詰めて考えればいいのであって、そこ
まで難しい話ではありません。
アイデアを出すのは自分でなくでもいいんです。いろんな人の話を聞いた
り、他業界や海外で話題を呼んだ事例、過去の成功例などからアイデアを持っ
てくればいいわけで、自分で出すことに固執する必要はありません。』

さらに
https://bdash-marketics.com/interview/485/
でP&G での経験とマクドナルドで何をしたか語っています。
『P&Gの場合は極端ですが、どれだけビジネスが良くても100点中50点しか取れ
ず、残りの50点は部下の育成や組織への貢献によります。つまり、一生懸命組
織を作って一生懸命部下を育てないと良い点が取れない。コンサルティング会
社でも、ヘンケルでも、マクドナルドでも、組織作りへの貢献はとても重視さ
れていました。そういう意味では、組織作りに対する情熱は、グローバルな会
社の共通点だと感じています。
意思決定のスピードが速いことです。ダメなものはダメ、良いものは良い。
明確にYESかNOかがはっきりしていて、その場その場で決めていくので、非常
にスピード感があります。日本企業は問題があったら“一旦置いておく”とい
うオプションがあるんですが、欧米の会社はスピード感を持ってどんどん進め
られたので、良くも悪くもすぐに結果が出て、非常にエキサイティングでした
ね。
これまでの経験を振り返って思うことは、“全体感を早く掴む”ことの重要
性です。
P&Gでのブランドマネージャー時代は、ブランドに関わるP/Lの責任を全部持っ
ていました。そして、P/Lに追加してキャッシュフローや人事等がスコープに
入ればそれはもう社長です。私の場合、シュワルツコフヘンケルの日本法人の
代表取締役として、35歳でこれらの幅広い経験が出来たことがとても良かった
と思っています。
また、どの会社もグローバルでずっと戦ってきた会社なので、グローバルで
ある程度通用するやり方を学べたことは非常に大きかったと思いますね。
マーケティングに直接関わったのはP&Gとマクドナルドの2社だけだでマーケ
ティングにおいてはその2社では違いがある。
大きく2つ違いがありまして、まず1つ目はターゲットの考え方です。P&Gは
一つ一つのブランドによって、それぞれこういう人に使ってほしいという明確
なターゲットがあります。例えば、お子さんがいらしゃる方しか子供用の紙お
むつは使わないので、パンパースはお子さんがいらっしゃるか方にしか訴求し
なくていいですよね。なので、それぞれのブランドでいかにそれぞれのターゲ
ットに対して効率的にリーチするかを考えます。一方で、マクドナルドのター
ゲットは国民全員です。いかに幅広く、高速でリーチできるかを考える必要が
あります。
2つ目は、お客様様とのコミュニケーションの方法です。P&Gはブランド制な
ので各々のブランドのコミュニケーションを最適化すればいいですが、一方マ
クドナルドの場合は「マクドナルド」という一つのブランドなので、色々なキ
ャンペーンを通して、“なんとなくマクドナルドに行ってもいいかも”、とい
う全体感を作ることが大切です。この2点が大きく異なりますね。
マクドナルドCMOに就任してから最初の一ヶ月間は店舗研修でした。正直、
一ヶ月で現場を全て知ることはできないと思いますが、現場を経験すること
で、ある程度全体感が掴めるのと、現場で築く事ができる人間関係がとても重
要だと思います。要は本音を聞き出せる関係性の構築ですね。これは飲食でも
アパレルでも一緒なのかもしれませんが、本社からのプランがどこでどういう
風に実行されていて、現場の人はどう思っているのかっていう話がよくわかる
わけです。何かあったら、店舗の方に直接連絡ができる関係性ができたのは非
常によかったと思います。
店舗研修が終わった後のプロセスと戦略
戦略(何をして、何をしないか)を決める必要があったので、仮説をある程
度考えたうえで色んな方とお会いしたり、データを見ながら、仮説を検証して
いきました。この「まず、解決法の仮説を立てる」というのは、コンサル時代
もよくやっていたので、特に難しくはありませんでした。重要なポイントはそ
こ(仮説を作り、検証すること)にあまり時間をかけなかったことです。僕の
場合は入社して半年~1年という比較的短期間で結果を出す必要があり、悠長
に「戦略立案」とか言ってられなかったので、ある程度正しそうな仮説は、ど
んどん実行に移していきました。
ミッションは売上と客数を増加させることです。売上=客数×単価で表すこ
とができます。私のメインのミッションは客数でしたが、客数だけでなく単価
も上げようと思っていました。なぜなら、客数は増加させるのに時間がかかる
んですよね。一方で、単価については、今のお客様を中心にしてきちんとやれ
ば、比較的短期間で上げることが出来ます。
マクドナルドでは、まず(低価格を訴求して)客数を増やしてから、その増
えたお客様に高付加価値の商品を販売して単価をあげればいいという考え方が
「定石」として信じられていましたが、それは私は間違っていると考えました
。実際、安い商品を目的に来店して頂いたお客様が、より高いものを買ってく
れるとは限りませんからね。また、とにかく短期間で成果を出す必要があった
ので、全て同時並行で進めていました。

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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